泌尿器科

当科について

科の特色・紹介

泌尿器科とは、後腹膜臓器(消化器や子宮、卵巣などを包んだ腹膜という膜があり、その後ろにある臓器、すなわち副腎や腎臓、尿管、膀胱、尿道などの尿の通り道)及び男性生殖器(前立腺、陰茎、睾丸など)を主に扱う外科です。

当科は、大正 12 年に開設された皮膚花柳病科に始まり、昭和 37 年には泌尿器科として独立しており、泌尿器科としては歴史の長い科です。しかし最近の泌尿器科検査、治療の進歩はめざましいものがあり、常に最新の医療技術を提供できるよう努力しています。

また指導医 5 名、専門医 7 名、総医師数 7 名は京都大学関連病院の中でも最大規模であり、各スタッフの能力を最大限に生かし、 あらゆる分野の泌尿器科診療に対応すべく励んでいます。

泌尿器科の扱う病気としては、それらのがん(血尿を初発症状として発見されることが多い)、前立腺肥大症などの良性腫瘍、結石、男性のED(勃起機能不全)、女性の尿失禁等々です。

社会の高齢化に伴って、欧米と同様に前立腺肥大症、前立腺がん、膀胱がんなどの疾患が激増しており、従って色々な他の疾患をお持ちの高齢の患者さんの手術をするケースが増えてきています。幸い当院は総合病院であり、各科の専門家と協力し、安全に治療することが出来ます。

私たちは、ただ単に病気だけを治すのではなく、人間である患者さんを治すことを目標に、それぞれの患者さんにとって一番良い方法を患者さんと一緒に相談して治療方針を決定しています。泌尿器科疾患でお悩みの方は、是非、私たちにご相談ください。

対象疾患・診療実績

対象疾患

泌尿器科の疾患の大半は、尿に血液が混じります。そんなわけで毎日多くの患者さんは血尿を訴えて泌尿器科に来られますが、中には尿に蛋白が出るという患者さんも来られます。蛋白が出る病気は腎炎やネフローゼなどの病気で、これは内科の病気になります。血尿が泌尿器科的なものか、内科(小児科)的なものかという鑑別は、私どもの病院では検査室の協力を得て、尿検査だけで比較的に簡単で正確に行うことが出来ます。

泌尿器科的血尿を訴える患者さんの中には、腎臓、尿管、膀胱、前立腺、尿道などのがんの患者さんもおられますし、また腎臓、尿管、膀胱などの尿路結石の患者さんもおられます。

がんの患者さんに対しては、手術を中心にがんの完全治癒を目指し、抗がん剤の治療や放射線の治療を行います。ただし、ただがんをやっつけることだけが最終目標ではなく、がんを持った人間である患者さんを救うことが目標であります。手術などでがんは治っても、残された人生が惨めなものではなりません。最近は生活の質(QOL)が叫ばれています。例えば、私たちの領域では膀胱がんで膀胱を全部摘出した後は、従来はおなかに尿を出すための管が入ったり、尿をためる袋を体外に貼る必要がありましたが、最近は腸でおなかの中に代用の膀胱を作ることもでき、今まで通りに尿道から排尿することも可能になってきました。私たちは、それらの手術を他の病院に先駆けて取り入れ、すでに多くの患者さんに実施し、満足していただいています。

尿路結石の治療は、20年くらい前まではすべておなかを切って手術して結石を摘出していましたが、最近は体外衝撃波を使っておなかに傷も付けずに結石を砕くこともでき、またファイバースコープを使って結石を砕くことも可能です。当科でも、20年近く前からこれらを駆使して治療して来ました。

老人男性の排尿障害を来す前立腺の病気も、非常に増加しています。特に前立腺がんは、アメリカでは男性のがんの死亡率では肺がんに次いで第2位であり、日本でも急速に増加しています。前立腺がんは血液検査で非常に早い時期に発見できますので、早期発見し、手術や放射線療法を駆使した結果、以前に比べると治療成績は遙かに向上しました。また、良性の前立腺肥大症に対しては、従来はすべて開腹手術でしたが、最近はほとんどおなかを切って手術をすることはありません。

女性の尿漏れに関しても、従来はおなかを切って漏れを直す手術しかありませんでしたが、膣の方から小さな傷で手術したり、ファイバースコープを挿入して中から尿漏れを治す手術を行っています。

泌尿器科はどうしても『下』の診察があると思われ、男性の方も恥ずかしがられ、敬遠される傾向があります。しかし、そのためにがんで手遅れになられた方も少なからず見てきました。もし何か、オシッコのことやオチンチンの事でお悩みでしたら、恥ずかしがらずに私たちにご相談ください。

診療実績

外来

一日受診患者数は平均100名(うち、新患は10名)、新患の約1/4は悪性疾患(疑いを含む)でした。紹介状をいただいた患者さんは、原則として第1診の担当医が診察させていただきます。

手術

例年、手術室で行う総手術件数は800件(外来レントゲン室で行った内視鏡手術は含まず)で、体外衝撃波による尿路結石破砕は約120人です。

●膀胱がんに対する治療

膀胱がんに対する膀胱全摘術は25件前後で(膀胱全摘術は極力膀胱保存を試みているため減少傾向ではあります)、経尿道的手術は140件です。膀胱がんに対しては、極力、膀胱を残すように努力していますが、どうしても膀胱全部を摘出する必要がある患者さんには、全身状態が良好な場合に前述のように腸を使った代用膀胱の手術を他施設に先駆けて行っており、QOL(生活の質)が低下しないように努力しています。

●前立腺がんに対する治療

前立腺がんに対する前立腺全摘術は30件で、前立腺がんに対する根治手術は漸増傾向です。

前立腺生検は200件行い、70件に新たな前立腺がんが発見されました。前立腺がんの治療は開腹手術、腹腔鏡手術、従来からの内分泌療法以外に放射線療法にも強度変調放射線療法、密封小線源治療、粒子線治療など極めて多様化しております。それらの長所、短所を全て患者さんにご説明し、治療方法を選択していただいているため、色々な治療法を選択される方も増加し、10名以上の患者さんは当院では対応できないロボット支援手術、密封小線源治療、粒子線治療を選択されたので、他施設に紹介しました。

当院の前立腺がんに対する基本的な方針としては、根治の可能な患者さんには根治手術か、新しい強力な放射線治療である強度変調放射線療法などをお勧めしています。

手術方法は、開腹手術では出来るだけ小さな創(従来の半分ほどの長さの約10㎝)で行うようにしています。またもっと小さい創で行う腹腔鏡(当院の方法は、正確には後腹膜鏡下手術です。5カ所の1㎝以下の穴をあけて内視鏡で行う方法です)による手術も導入し、良好な成績です。いずれの方法も大体2週間前後の入院が必要です。

手術を選択するか放射線療法を選択するかは、最終的には患者さんのご希望ですが、全身状態が良く、元気で大体72~73才以下の方には、手術の方をお勧めしています。腹腔鏡手術は手術時間が長いことが欠点(患者さんに対してのみならず医者の負担が大きい)ではありますが、メリットは、輸血の可能性が低く、術後の創痛が少ないことなどが挙げられます。手術には、現在2週間前後の入院が必要です。

また、根治手術が適応でない方には、お薬による治療を行いますが、出来るだけ薬の副作用を減らし、薬の効果を長く持続させるために間歇的内分泌療法を中心に行い、良好な成績を挙げています。

●前立腺肥大症の治療

前立腺肥大症に対しては、出来るだけ薬物治療を行います。この場合は、紹介元の先生や近隣の泌尿器科開業医の先生方に、経過観察していただいています。

ただ、中には薬物の治療にこだわり過ぎると、尿毒症など取り返しのつかないことになるケースがありますので、そのような薬物療法に適さない重症例、また薬物療法が長期にわたり、それでも症状がすっきりされない方などには、積極的に手術をお勧めしています。ほとんど全例で、お腹を切らずに尿道から内視鏡を入れて、尿道の邪魔をしている前立腺の肥大部分をレーザーで摘出する手術を約40件行い、良好な成績です。約1週間の入院が必要です。

●主な治療成績

根治的前立腺全摘術後の3年 PSA 非再発率は50%でやや低い数字ですが、画像診断上、転移のない症例で患者さんの希望が強い場合は、積極的に全摘を行っているためと思われます。術前 PSA 値10以下の症例に限ると、3年PSA非再発率は70%でした。PSA failure を来した症例に対しては、積極的に放射線療法を追加し、良好な成績を挙げています。

腎がんに対する根治的腎摘の5年生存率は86%で、比較的 low stage の症例が多かったことが良好な成績につながっていると考えられます。かかりつけの先生方が超音波などで早期に発見され、ご紹介いただいた結果と思われます。

膀胱がんに対する根治的膀胱全摘術の5年生存率は、62%でした。

腎がん、腎盂尿管がんに対する治療は50例で、うち30例以上は腹腔鏡手術を行っています。その他副腎に対する腹腔鏡手術も10例前後あり、腹腔鏡手術の件数は増加しています。

また当科は、なぜか進行した巨大な腎がんが紹介されるケースが多く、それらに対しても可能な限り積極的に手術を行っています。

EDや最近話題のLOH症候群(いわゆる男性更年期)に関しては、現在専門家がいないので、他施設を紹介しております。

お知らせ・その他

限局性前立腺がんに対する腹腔鏡下前立腺全摘術について

根治(完全に治せる)の可能性がある前立腺がんに対する治療法は、従来、 開腹手術(下腹部を約10 ㎝切開して前立腺精嚢(せいのう)を一塊として摘出する方法)だけでした。最近は、「腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術」という下腹部に鉛筆程度の小さな穴を5 カ所ほど開けて、そこから内視鏡で見ながら、手は突っ込まないで細長い鉗子(道具)だけを挿入して、前立腺や精嚢を摘出する手術方法が広まってきました。この手術は技術的に難易度が高く、しかもある程度の実績を重ねて、初めて病院として保険診療が出来る施設基準を取得する必要があります。この施設基準を取得するためのハードルが高いため、まだ比較的限られた施設でのみ行われています。

当院は、平成23 年9 月に「腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術」の施設基準を取得し、すでに100 例以上の患者さんに手術させていただき、良好な成績を収めています。この手術は、気腹といって、おなかの中に炭酸ガスを注入しておなかを膨らませて、手術するスペースを確保して行います。そのため、手術中のおなかの中の圧力は10 気圧近くになります。開腹の前立腺がんの手術では出血し、輸血が必要となる場合が多いですが、この気腹の操作により、静脈の出血が少なくなり、輸血を必要としないことが多くなりました。また開腹手術に比べて創が小さいため、術後の患者さんの痛みは、開腹手術に比べてかなり少なく、回復も早いのがメリットです。

欠点としては、手術時間が少し長くなること、手術中の術者が苦しい姿勢で長時間行うため、医者にとってはきつい面もあります。また、この手術がすべての面で従来の開腹手術に勝っているわけではありません。若い方で勃起機能を温存する希望の方には、私たちは開腹手術で4 倍のルーペ(拡大鏡)で見ながら慎重に勃起神経を残す方法も行っています。現時点では、左右ともその方法で勃起神経を残した場合の成功率は70%以上を誇っていますが(ただし、バイアグラなどの薬剤の併用が必要である場合が多いです)、腹腔鏡手術ではまだそこまでの成績を挙げることは出来ていません。また、開腹手術でも痩せた身体の方では、10 ㎝以下の切開でも行うことが出来ます(6~7 ㎝)。

手術方法は、患者さんのがんの状態や、体型、ご希望などを相談して決めさせていただいています。前立腺がんで手術をお考えの方は、どうぞ私たちにご相談ください。

前立腺肥大症に対する新しい、身体に優しい手術方法が導入されました
~ホルミウム・ヤグレーザーによる前立腺核出術(HoLEP)~

ホルミウム・ヤグレーザーによる前立腺核出術(HoLEP)は、レーザー光を使用して、前立腺の肥大した組織を内視鏡下に摘出する治療法です。当院では、平成25年3月からこの手術を導入しましたのでご紹介します。

Q1:どんな手術ですか?

A1:この手術は、まず内視鏡を尿道から挿入し、ホルミウム・ヤグレーザーという種類のレーザー光を、前立腺の内腺(前立腺肥大組織)と前立腺外腺(外科的被膜)の間に照射してその境界をはがしていきます。ちょうど、みかんの皮をむくような操作です。はがれた前立腺肥大組織は、やがて外腺からはずれます。このことを「核出」といいます。きれいに核出された組織は、「モルセレーター」という装置を用いて、細かく裁断して吸引除去します。

Q2:これまでの手術と比べてどのような点が優れているのですか?

A2:従来は、「経尿道的前立腺切除術(TURP)」という手術が標準手術でした。これは、内視鏡下に前立腺肥大組織を電気メスで少しずつ削りとり、その切片を洗い出す手術です。この方法では、大きな前立腺肥大症では出血が多くなり、また、術中に使う潅流液が体内に吸収され、低ナトリウム血症(軽症では嘔気や頭痛、重症では意識障害、呼吸不全)を来たすなどの副作用がありました。前立腺の大きさが大きいとその副作用の危険性が高まるため、大きな前立腺肥大症では施行しにくいという問題がありました。

HoLEPでは、これらの危険性が大幅に減少し、前立腺肥大が大きいために開腹が必要であったケースでも、この手術で出来るようになります。また、切除面が無理なくはがれる面であることから、術後の疼痛やカテーテル留置期間が短くてすむといわれています。

Q3:注意点は?

A3:手術時間がやや長くかかるため、全身麻酔が必要になる場合があります。手術後に尿道カテーテルを抜去した後の一時的な尿もれや、また非常に稀ですが、組織を裁断吸引する装置(モルセレーター)による特殊な合併症として、膀胱損傷などもあります。詳しくは、泌尿器科外来でご相談ください。