肺がん
肺がんについて
いわゆる「肺がん」は、肺(気管支や肺胞など)の細胞が"がん"に変化して増える悪性の病気で、原発性肺癌を指します。最近の日本における報告では、新たに原発性肺癌と診断されたのは124,531例(2021年 2位)、亡くなった人は75,569人(2024年 1位)と報告されており、日本人の死因のトップである「がん」のうち、最大の原因となっている疾患です。
数々の疫学調査から喫煙は最大の原発性肺癌の発生要因とされています。予防という観点からは、「喫煙しないこと」が日本全体での原発性肺癌の発生数を減少させ、特定の個人については原発性肺癌の発生確率を減少させる、各個人で達成し得る最大の手段となります。また、治療についても喫煙したままの状態では手術、抗がん薬治療、放射線治療のいずれの場合でも副作用や合併症を増やす原因にもなります。
肺がんの診療の流れ
原発性肺癌は、無症状の段階で検診・人間ドック、あるいは他疾患の診療中に行われた検査を契機として、偶然に発見されることがあります。
一方で、慢性的な咳、血痰、息切れ(呼吸困難感)といった呼吸器症状、あるいは倦怠感、胸痛、意識状態の変調など全身的な症状をきっかけに、精査の結果として見つかる場合もあります。
これらの検査で肺癌を疑う所見が認められた場合、通常は専門医療機関での精密検査が必要となります。当院では呼吸器内科が担当し、受診後は段階的に検査を進めて、病変の性質と広がりを総合的に評価します。
受診後にまず行うのが「診断」です。診断は、治療方針を決定するうえでの土台であり、主に次の4つの観点から行います。
1.存在診断(病変の把握)
どこに、どのような病変があるのかを確認します。画像検査(CT,PET-CT,MRI等)により、病変の位置・大きさ・形状や周囲への影響を評価します。
2.病理学的確定診断(正体の確定)
病変が原発性肺癌であるかどうか、また肺癌であればどのタイプかを調べます。治療選択に直結するため、必要に応じて組織や細胞を採取(気管支鏡検査等)し、顕微鏡検査などで確認します。
3.臨床病期診断(広がり=ステージの評価)
原発巣の広がり、リンパ節転移の有無、他臓器への遠隔転移の有無と部位を調べ、病期(ステージ)を評価します。病期は治療の選択肢と見通しを考えるうえで重要です。
4.全身状態の把握(治療の安全性の評価)
治療は「病気の状態」だけでなく、「患者さんのお体の状態」によっても最適解が変わります。体力、呼吸機能、持病、内服薬などを確認し、無理なく安全に治療が行えるかを評価します。
以上の評価のため、病歴聴取、身体診察、各種検査を順に行い、その結果を総合して、患者さんにとって最も適切な治療方針を検討します。
肺がんの診断に必要な検査
上記の診断のうち「存在診断」「臨床病期診断」に必要な検査として、体幹部(頸部~胸部~腹部)のCT検査 (図1)、頭部のMRI検査ないしはCT検査(図2)、FDG-PET/CT検査(院外)(図3)の3つの画像検査がほぼ必須となります。また、過去の検診などでレントゲンやCTの画像がある場合は、現在と過去の画像を比較し病変の経過を確認することは極めて重要です。



「病理学的な確定診断」には、「生検」(原発性肺癌を疑う病巣の一部を採取し、顕微鏡下に病変の良性/悪性、組織型を病理学的に診断する)が必要になります。生検する場所にあわせて、喀痰検査、気管支鏡、CTや超音波ガイド下肺生検、胸水穿刺などの方法を選択します。後述するドライバー遺伝子(耐性を含む)の問題もあり、なるべく組織診断をつけるようにしています。気管支鏡専用のCアーム透視台を備えた気管支鏡室にて気管支鏡検査(原則1泊2日)を行い、症例に応じて超音波気管支鏡(Endobronchial Ultrasonography:EBUS)や細経気管支鏡も活用し、診断確定率を上げるように努めています。胸壁に近い部位や気管支鏡では到達が難しい部位に関しては、放射線診断科に依頼してCTまたは超音波ガイド下生検や呼吸器外科に依頼して外科的生検などを行う場合もあります。また、CT検診などの普及により、生検が困難な小さい肺癌疑い病変が見つかることがあります(図4)。この場合は、「経過や画像所見で肺癌が強く疑われる」「肺癌だとした場合、切除が適応となる臨床病期」であれば、「生検」をスキップして確定診断を兼ねた切除術を行うこともあります。

近年は、生検で単に肺癌の診断をつけるのみだけでなく、ドライバー遺伝子(がんの増殖スイッチを入れている原因)、タンパク質の発現の有無や程度を調べることも行われています。現在、治療に結びつくドライバー遺伝子として、EGFR、ALK(融合)、ROS1(融合)、BRAF(V600Eなど)、MET(exon14スキッピングなど)、RET(融合)、NTRK(融合)、KRAS(G12Cなど)、HER2(ERBB2)や、免疫療法の効きやすさをみるPD-L1タンパク質発現の測定が、肺がん薬物治療の選択肢決定の上で非常に重要な情報となっています。
「全身状態の把握」は、治療を進めるうえで非常に重要です。ECOG Performance status、既往歴(=過去に罹患した疾患)、併存症(今現在指摘されている、あるいは治療中の疾患)、喫煙歴、使用している薬剤、採血データ、呼吸機能検査、心電図などを確認し、治療の妨げになるような状態、あるいは治療において配慮すべき状態の把握をします。
治療方針

治療方針を決めるうえでまず重要になるのが、原発性肺癌のタイプ(組織型)です。肺癌は大きく、小細胞肺癌と、それ以外の非小細胞肺癌に分かれ、治療の考え方が大きく異なります。
小細胞肺癌
小細胞肺癌は進行が速い一方で、抗がん薬(化学療法)や放射線治療が効きやすいことが多いタイプです。
治療は多くの場合、手術よりも薬物療法と放射線治療を組み合わせた治療が中心になります。
●限局型(胸の中に限局している場合):
化学放射線療法(抗がん薬+放射線)を同時に行う治療が基本です。
さらに近年は、化学放射線療法後に免疫療法(デュルバルマブ)による維持/地固め療法を行う選択肢も示されています。
●ごく早期(Ⅰ期~ⅡA期でリンパ節転移がない場合など):
根治が期待できる状況では、手術+術後の抗がん薬が選択されることがあります。
●進展型(広がりが大きい場合):
抗がん薬に免疫療法(アテゾリズマブ/デュルバルマブ)を併用し、その後に免疫療法を継続する治療が標準的な選択肢の一つです。
非小細胞肺癌
小細胞肺癌以外の肺癌は、腺癌・扁平上皮癌などを含めて非小細胞肺癌と総称されます。治療は主に病期(ステージ)(表1)で決まり、必要に応じて組み合わせます。
●Ⅰ期・Ⅱ期、そしてⅢ期の一部(切除可能な場合):
手術が中心になります。
近年は、手術の前後に薬物療法(抗がん薬、免疫療法、分子標的薬など)を組み合わせることが増えています。
●Ⅲ期(手術が難しい場合):
化学放射線療法が中心となり、その後に免疫療法(デュルバルマブ)による地固め療法を行う方針が示されています。
●Ⅳ期(遠隔転移がある場合):
薬物療法が中心です。がんの性質により、分子標的薬(ドライバー遺伝子に合った薬)や免疫療法、抗がん薬を組み合わせて検討します。

手術治療
手術の適応とされる臨床病期I期、II期、一部のIII期の非小細胞肺癌に対しての手術治療は、治癒をもたらす可能性の最も高い治療法です。
切除の範囲ですが、肺癌の手術の基本は、肺癌病巣を含む肺葉(肺の袋)の切除=肺葉切除、および所属するリンパ節の郭清(決められた領域のリンパ節の切除)になります。しかし、病変の広がりのため、肺葉切除よりもさらに広い範囲の切除(二葉切除、一側肺全摘、隣接臓器の合併切除など)を必要とする場合もあります。
一方で、併存疾患や低肺機能のために、手術そのものは可能だが、標準的な手術である「肺葉切除」ができない場合があります。その場合は、「縮小手術」という、切除範囲を限定した切除方法がとられる場合があります。具体的には区域切除や楔状肺部分切除を行うことになります。これらの術式は肺の切除量を減らし、切除後の負担を減らすことができる反面、局所の再発の危険性が高くなることが知られています。さらに、臨床病期としては手術適応だが、手術そのものが困難という場合があります。その場合は、放射線治療などの非手術治療法が選択されます。
近年の画像診断の発達で、非常に小さい肺癌病変(図4)が発見される機会が増えており、「標準的な手術である肺葉切除より少ない範囲の切除である縮小手術でも、根治的な手術になり得る」場合があります。施設により適応される範囲が異なりますが、当院では、1) 腫瘍径が20 mm以下、2) 肺の末梢側に存在、3) FDG-PET検査での病変の活動性が低い、4) 術中のリンパ節の診断で転移がないこと、という条件が揃えば、適応としています。
切除するためのアプローチですが、ここ20年で、内視鏡手術(胸腔鏡と呼ばれるカメラを使用した手術、一般にVATS: videothoracoscopy-assisted thoracic surgeryと呼ばれる)で、小さい手術創にて行うことが一般的となっており、また、2018年4月より手術用のロボットを使用した、ロボット支援胸腔鏡下の手術(RATS: robot-assisted thoracic surgery)も保険適応となっております。当院呼吸器外科でも、VATSによる手術を基本とし、症例によりダビンチXiという手術用ロボットを使用したRATSによる手術を行っております。
一方で、肺門部(肺の付け根)に浸潤する肺癌や非常にサイズの大きい肺癌、気管支や血管の再建が必要な場合は、開胸手術、場合によって肋骨を切断して肋間を開けて行う手術が必要になります。患者さんそれぞれによって適切なアプローチ方法を選択して行うことになります。
手術適応になる臨床病期の場合でも、病変の進行度や部位により、手術の前、あるいは後に内科的な治療を要する場合があります。
1) 肺尖部胸壁浸潤肺癌:
肺尖部と呼ばれる胸腔の頂上の部分に浸潤する肺癌で、手術の前に放射線+化学療法を行った後に、切除術を行うことが推奨されています。
2) 肺門や縦隔リンパ節転移、あるいはサイズの大きい腫瘍:
臨床病期で、N2-III期、あるいはT3-4期のIII期肺癌です。手術の前に化学療法+免疫チェックポイント阻害薬治療あるいは化学療法+放射線療法を行った後に切除を行う方法です。前者については近年複数のエビデンスがでており、また後者については大阪赤十字病院で多数実績があります。比較的体力のある若い患者さんで考慮されます。
3) 術後補助療法(再発を減らすための"追加治療"):
手術でがんを取り切れた場合でも、目に見えない微小な病変が残っている可能性があります。そこで、病理病期(手術後に確定するステージ)や再発リスクに応じて、手術の後に薬物療法などを追加し、再発を減らすことがあります。
●UFT(テガフール・ウラシル)内服
主に病理病期I期の一部などで検討されます。適応は腫瘍の大きさや病理所見を踏まえて判断します。
●プラチナ併用の術後補助化学療法(シスプラチンを含む点滴治療)
主にIIB期~III期などで推奨され、代表的にはシスプラチン併用療法が用いられます。
●術後の免疫療法(アテゾリズマブ)
プラチナ併用の術後補助化学療法を行った後で、PD-L1陽性など条件を満たす場合に、術後アテゾリズマブを追加する選択肢があります。
●術後の分子標的薬(ドライバー遺伝子に合わせた内服治療)
腫瘍のドライバー遺伝子によって、術後に内服治療を追加します。
○EGFR遺伝子変異陽性:オシメルチニブ
○ALK融合遺伝子陽性:アレクチニブ
いずれも再発抑制が示されており、条件が合えば選択肢となります。
●周術期免疫療法(術前+術後に免疫療法を組み合わせる治療)
切除可能NSCLCでは、近年、手術前に化学療法+免疫療法を行い、手術後も免疫療法を続ける"周術期治療"が選択肢になっています。日本では主に次のようなレジメンあり、呼吸器内科・外科、放射線治療科で患者さんごとに適切な治療を相談、決定しています。
○ニボルマブ+化学療法(術前補助療法:手術前に数コース)
○ペムブロリズマブ(術前併用+術後補助:周術期療法)
○デュルバルマブ(術前併用+術後補助:周術期療法)
4) サルベージ手術:
臨床病期で手術の適応にならない場合、あるいは初手での手術が困難な例であっても、内科的治療に伴い、手術が可能になるほど腫瘍が縮小する場合があります(図5)。また内科的治療が非常に有効だったが局所のみの再増大で切除が可能、という場合もあります。そのような場合に手術を行うものをサルベージ手術と呼んでいます。技術的な難易度が高く、また患者さんの状態が良好であることが必須ですが、「根治」を目指せる治療として、近年施行例が増えています。大阪赤十字病院呼吸器外科でも、呼吸器内科、放射線治療科と協力し、適応となる例にはサルベージ手術を行っております。

化学療法・放射線療法
① 化学療法(非小細胞肺癌)
手術適応がないと判断された臨床病期ⅢA~ⅢCの非小細胞肺癌においては、化学療法(カルボプラチン+パクリタキセル、シスプラチン+S-1など)と放射線療法の併用(同時化学放射線療法)が推奨されます。臨床病期ⅢA~ⅢCは「根治」を目指せる病期であり、同時化学放射線療法後に病勢進行がない患者さんに対しては、免疫チェックポイント阻害薬(デュルバルマブもしくはアテゾリズマブ)による1年間の維持療法を行うことが2018年より標準治療となりました。
一方、臨床病期Ⅳ期の非小細胞肺癌の標準治療は薬物療法になりますが、近年多くの新薬が承認され使用可能となっています。以前はEGFR、ALKの遺伝子変異に対してのみ分子標的薬が使用可能でしたが、最近はROS1、BRAF、MET、RET 、KRAS、HER2、NTRKなどに対する分子標的薬も使用可能となりました(表3)。このように続々と登場する分子標的薬の適応となるかどうかを調べるために、当院では次世代シークエンサーを用いてドライバー遺伝子を網羅的に検査し、治療に役立てています。ドライバー遺伝子を検出した患者さんに対しては、各々対応した分子標的薬を使用した治療を行っています。また、これらの遺伝子変異がない患者さんに対しては、免疫チェックポイント阻害薬、殺細胞性抗癌剤が治療の軸となり、可能な患者さんでは免疫チェックポイント阻害薬と殺細胞性抗癌剤の併用療法を行います。
このように非小細胞肺癌の治療の進歩はとても進んでおり、当院でも各抗癌剤に伴う副作用に対しても適切な支持療法を行いながら、各患者さんに応じた最適な治療を行っています。

② 化学療法(小細胞肺癌)
病変の広がりに応じて、限局型小細胞肺癌と進展型小細胞肺癌に分けられます。限局型に対しては同時化学放射線療法を行って根治を目指します。進展型小細胞肺癌に対しては長年殺細胞性抗癌剤が標準治療となっていましたが、2018年より殺細胞性抗癌剤と免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブ、デュルバルマブ)の併用療法が承認され、2025年には放射線化学療法後の免疫チェックポイント阻害薬(デュルバルマブ)の地固め療法が標準治療となっています。
③ 放射線療法
上記の化学療法との併用のみならず、骨転移や脳転移に対する緩和的放射線照射(必要に応じてガンマナイフ(院外))も行っています。
| 【更新履歴】 | |
| 2025.11.27 | 動画追加(肺がん薬物治療の進歩、呼吸器外科で行う肺がん手術) |
| 2026. 1. 6 | 表1、2変更 表3、図5追加 |
| 2026. 2.17 | 解説文(全項目)、表1変更 |

