各がんの解説EXPLANATION

悪性リンパ腫

            

悪性リンパ腫について

悪性リンパ腫は白血球の一種であるリンパ球が癌化する疾患です。癌化したリンパ球は増殖(分裂して数を増やすこと)してリンパ節などで "かたまり" を作ります。首・脇の下・足の付け根にはリンパ節が多く集まっているので、これらの部位のリンパ節が腫れてきて変だなと気付かれることがあります。しかし癌化したリンパ球はリンパ節以外の場所であっても増殖して"かたまり"を作りますので、胸・お腹・脳・眼球など血液の流れるところならどこでも、全身のあらゆるところから発生します。癌化したリンパ球が作る"かたまり"は触っても痛まないことが多く、治療しないと次第に大きくなるという特徴があります。また約半数の患者さんではB症状と呼ばれる症状(発熱、盗汗、体重減少)がみられます。

悪性リンパ腫の診断について

血液検査や画像検査(レントゲン, CT, MRI, PET)を行い、悪性リンパ腫の可能性が高いと判断される場合には、 "かたまり" のどこか1ヶ所を手術で取ってきて調べて診断をつけます。この手術で取ってきて調べる検査のことを生検といいます。悪性リンパ腫にはたくさんの種類がありますが、生検を行うことによって①悪性リンパ腫なのかどうか ②どのタイプの悪性リンパ腫なのか ということがわかります。

悪性リンパ腫の分類について

全ての悪性リンパ腫は①ホジキンリンパ腫 ②非ホジキンリンパ腫 の二つの群のどちらかに属します。ホジキンリンパ腫はホジキン博士によって最初に発見された悪性リンパ腫であり全リンパ腫の5-10%を占めます。ホジキンリンパ腫以外の悪性リンパ腫は全て非ホジキンリンパ腫に該当し、これらが全リンパ腫の90-95%を占めます。非ホジキンリンパ腫は50種類以上と豊富にタイプが存在します。臨床の現場では進行の速さの違いによって大きく(1)低悪性度群(年単位で進行するタイプ) (2)中等度悪性群(月単位で進行するタイプ) (3)高悪性度群(週単位で進行するタイプ) の三つのグループに分け、患者さんの治療介入の緊急度がどの程度であるかを考えつつ診療を進めます。
低悪性度群の非ホジキンリンパ腫の代表的なものが濾胞性リンパ腫(FL)とMALTリンパ腫です。また、中等度悪性群の代表的なものとしてはマントル細胞リンパ腫(MCL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)、NK/T細胞リンパ腫が、高悪性度群の代表的なものとしてはバーキットリンパ腫(BL)や成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)が挙げられます。

悪性リンパ腫のステージ(病期)について

臨床症状、画像検査(CT, MRI, PET)、骨髄検査の結果をAnn Arbor分類に当てはめることにより、患者さんがステージⅠ~Ⅳのいずれに該当するかを判定します。またステージⅠとⅡを「限局期」、ステージⅢとⅣを「進行期」と呼びます。

悪性リンパ腫の治療について

悪性リンパ腫の治療は①どのタイプのリンパ腫なのか ②ステージはいくつに該当するか ③患者さんの状態や合併症 といったことを考慮した上で選択されます。治療法の中心となるのは抗癌剤を用いた化学療法ですが、巨大腫瘤を伴う場合や中枢神経に浸潤してしまった場合には放射線療法を併用することがあります。
悪性リンパ腫の治療戦略はどのタイプのリンパ腫であるかによって大きく異なります。 例えば、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の場合、限局期であれば化学療法(R-CHOP療法) 3コースを施行した後で放射線療法を施行しますし(放射線療法は用いないでR-CHOP療法 6コースのみで治療する場合もあります)、進行期であれば化学療法(R-CHOP療法) 6~8コースを施行して治療します。治療終了後に残念ながら再発してしまった場合や治療抵抗性の場合、救援化学療法(R-ESHAP療法、R-GDP療法、R-GCD療法、R-ICE療法、R-CHASE療法、R-EPOCH療法など)を施行して腫瘍を縮小させつつ、年齢などの条件が許す場合には自家末梢血幹細胞移植術を施行して根治を目指します。再発難治性の場合、CAR-T療法の適応についても検討します。濾胞性リンパ腫の場合、低腫瘍量の患者さんでは化学療法を行わずしばらく経過観察を行う場合もありますし、化学療法(リタキシマブ(R)療法、ベンダムスチン+リタキシマブもしくはオビヌツズマブ(G)療法、R(G)-CHOP療法、R(G)-CVP療法)や放射線療法を行う場合もあります。高腫瘍量の患者さんでは標準的化学療法(BR(G)療法、R(G)-CHOP療法、R(G)-CVP療法)で治療した後でリツキシマブやオビヌツズマブ維持療法を行うことが比較的多いですが、維持療法は行わず無治療で経過観察を行っている場合もあります。上記以外でも当院では個々の患者さんの年齢や臓器能、併存疾患を考慮しながら、リンパ腫のタイプごとに良好な成績をあげている治療法の中から治療法を選択しています。例えばホジキンリンパ腫ではABVD療法やブレンキシマブ・ベドチンを併用したA-AVD療法を、マントル細胞リンパ腫では(R-)hyper-CVAD/MA療法や自家末梢血幹細胞移植術を、MALTリンパ腫ではヘリコバクターピロリー除菌療法やリタキシマブ療法や放射線療法を、末梢性T細胞リンパ腫ではCHOP療法を、NK/T細胞リンパ腫ではRT-2/3DeVIC療法やSMILE療法を、バーキットリンパ腫ではDA-EPOCH療法やCODOX-M/IVAC療法やR-hyperCVAD/MA療法を、成人T細胞白血病/リンパ腫ではmLSG-15療法やCHOP療法、モガムリズマブ療法や同種造血幹細胞移植術を実施しています。
医学の進歩に伴い治療効果のある新規薬剤が登場してきており、保険適応に応じて対応しています。