各がんの解説EXPLANATION

子宮頸がん

            

子宮癌について

子宮は女性の下腹部にある、妊娠していないときは鶏卵より少し大きいぐらいの臓器です。逆立ちした人形のように見立てて、丸い上3分の2は体部、細くなった下3分の1は頸(首のこと)部と呼んでいます。体部のなかは空洞になっていて(内腔)、頸部に通っている管(頸管)で腟に通じており、体部の中で赤ちゃんが育ち、頸部は蓋になっていて、お産の時に開いて赤ちゃんが通って出てきます。腟、頸管、内腔は、皮膚や口などと同じく皮(上皮と言います)で覆われています。癌は上皮から出てきます。 

頸部、体部どちらの上皮からも 癌はできますが、その成り立ち、性質が全然違いますので、それぞれにできる癌、すなわち子宮体癌と子宮頸癌は別の病気です。ここでは子宮頸癌(以後単に頸癌と言います)について述べます。

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子宮頸癌の原因について

頸癌は一部の特殊なタイプを除き、ほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスが原因と言われています。HPVは性交渉によってうつります。HPVが子宮頸部の上皮に来てもそのまま排除されたり、一旦ついても自然に消えることが多いです。持続的に感染している1割ぐらいの人では、上皮の中で異型細胞が増殖します。これを異形成と言い、程度により軽度、中等度、高度に分け、さらに上皮の表面から底まで全層が異型細胞で置き換わるのを上皮内癌といいます。近頃は軽度異形成をCIN1、中等度をCIN2、高度と上皮内癌を合わせてCIN3と呼びますので、ここでも以後それに従います*。がんというのは、体中に広がって(転移)命にかかわるものですが、上皮内にとどまっているうちは転移はしないのでCIN3でもまだがんとは言えません。これが上皮から下の層(間質)に進む(浸潤と言います)と 転移の恐れも出てくる頸癌です。CIN1のうち1割ほどがCIN2に、さらにその1割ほどがCIN3なり、CIN3となるともう8割ほどは頚癌に進むとされています。通常HPV感染から頸癌になるのには何年もかかります。

*最近はCIN1をLSIL、CIN2とCIN3を合わせてHSILとも言いますが、ややこしくなるのでここではCIN1,2,3の語のみ使います。

子宮頸癌の進行の仕方と病期について

浸潤する頸癌になっても子宮頸部にとどまっているのをⅠ期、頸部を出て腟や、横の靭帯に浸潤開始するとⅡ期、その程度がひどくなるとⅢ期、子宮の前後にあるものの境があってすぐには冒されない膀胱や直腸に浸潤したり、もっと遠くに飛ぶ(転移)のはⅣ期とされ、もちろん病期が進むほどその後の経過(予後)は不良です。

子宮頸癌の症状について

進行するに従い異常なおりもの、月経以外特に性行為の際の出血、下腹部の痛みなどが現れてきますが、CINはもちろん頸癌になっても初期には症状はありません。

子宮頸癌の予防について

ウイルスが原因なら、インフルエンザのようにワクチンを打てばある程度でも防げるのではと考えられ、HPVに対するワクチンが作られました。完全とは言えませんが、予防効果は認められており、性交渉が始まる前の年齢の女子全員を対象に接種することにしている国がたくさんあります。子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)は平成25年4月より定期接種となりましたが、副反応の懸念から6月より積極的な勧奨を差し控えられていました。しかし、安全性が確認され、令和3年11月に勧奨の差し控えは終了となっています。

また、早期発見することも大切です。CIN~頸癌は 頸管が腟に出てくる口(外子宮口)の周辺から出てくることが多いです。ここは腟の一番奥に見えるところですから、病気があれば、そこをこすると異型細胞が取れてくるのでそれを顕微鏡でみて判定します(細胞診)。これがいわゆる子宮頸癌検診です。異常な細胞が出ても、細胞だけではまだどのような段階かわかりませんので、拡大鏡(コルポスコピーと言います)で見て病気のありそうなこところで爪の先ほどのまとまり(組織)を切り取って(生検と言います)、顕微鏡で見て診断(病理組織診断)します。見えやすく、検査しやすいところなので 検診を受ければCINの時から発見が可能です。症状のないうちに早期発見できれば確実に治すことができます。ワクチンを接種しても100%は防げませんので、子宮頸癌検診を受けることは大切です。

子宮頸癌の治療と予後について

一般的にがんの主な治療には、手術、放射線療法、抗癌剤の治療(化学療法)があります。CIN~頸癌は、妊娠希望があるかなど個々の事情などで異なりますが おおよそ次のように治療します。

CIN2までは 自然に消えていく方が多いので、定期的に検査して経過を見ることが多いですCIN3は、病変ができた外子宮口あたりを円錐状にくりぬく手術(円錐切除)をします。腟から行う簡単な手術です。またレーザーで焼き飛ばす(蒸散)している施設もあります。肉眼ではまだわからないほどの浸潤が少し始まったⅠA期は(お腹を開けることも 腟からすることもありますが)子宮を取ります(単純子宮全摘)。ここまでの状態ならほぼ100%治ります。癌が肉眼でわかるほどになったⅠB期やⅡ期では、日本では子宮とともに周囲の靭帯や 腟を十分にとり、リンパ節を広範囲に摘出します(広汎子宮全摘)。ⅠB期では9割治りますがⅡ期では7割程度です。それ以上に広がっているときには放射線(単独または化学療法と組み合わせて)治療です。Ⅲ期は治る可能性は半分ぐらいです。さらに遠くに飛んでいれば全身的な治療としての化学療法を中心にしますが、残念ながら効きが良いとは言い難く、ここまでくると治る可能性は2割もありません。当院では毎年円錐切除は60-70件、広汎子宮全摘は十数件、初回放射線治療は数件程度ありますが、ⅠB期以上では、治っても広汎子宮全摘や放射線治療では後遺症を残すことも多く、子宮頸癌検診を受け早期発見して軽い手術で済むほど後遺症を避けることができます。