乳がん
乳がんについて
乳がんは、女性の死亡率第5位、がん罹患率第1位、10人に1人が乳がんを発症するといわれています。乳がんの診断、治療は日々進歩しており、治療成績も向上しています。
乳がんの診断について
診断においては、乳腺MRIの発達で微小な病変まで検出できるようになり、組織量を多く採取できるマンモトーム生検の導入によりごく早期の乳がん(非浸潤癌)を発見できるようになってきています。
当院での遺伝カウンセリングについて
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)は、乳がん全体の3-5%を占めています。HBOCに関与する遺伝子として、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子という2種類の遺伝子が同定されています。これらの遺伝子のどちらかに病的変異がある場合に、HBOCと診断されます。HBOCでは、若い年齢での乳がんの発症、両方の乳房での乳がん発症、乳がんと卵巣がんの両方の発症が見られることがあります。HBOCの患者さんの拾い上げは、乳がんの二次予防につながるので、 HBOCに関するカウンセリングは重要です。
初診時には、家族歴を詳細に聴取しリスク評価を行い、 HBOCのリスクの高そうな患者さんには、遺伝カウンセラーによる、より専門的な遺伝カウンセリング外来(自費診療)への受診を勧めています。
2020年の診療報酬改定から、条件を満たした乳がん患者さんはHBOCの遺伝子検査を保険診療で受けることができるようになりました。また、その検査で病的変異がある=HBOCと診断された患者さんは、希望があれば対側の乳房や卵巣の予防切除も保険診療で受けることができるようになりました。乳がん患者さんの血縁者で乳がんになっていない方は、現状では自費での遺伝子検査となりますが、受けることができます。
乳がんの治療および生存率について
治療においては、手術、放射線治療、薬物療法の集学的治療が基本となっています。治療前の生検標本または手術標本から乳がんのbiology(生物学的特徴)を調べ、そのsubtypeに沿って治療方針を決定しています。
乳がんは、実臨床上ER(Estrogen receptor)、HER2、Ki67(増殖能マーカー)の発現形式によって大きく5つのsubtypeに分けられます(図1)。それぞれのsubtypeによって悪性度や薬剤感受性が異なるため、治療方針が違います。図2は、乳腺外科で施行した術前化学療法でのsubtype別の生存率a) & b)を示しています。諸家の報告と同様に、悪性度が高く、抗癌剤感受性が高いtriple negative type やHER2 typeでは、術前化学療法により病理学的完全奏効(pCR:癌の遺残がない)が得られた患者さんは、pCRが得られなかった患者さんに比較して、有意に生存率が高いことが示されています。これらの結果を基にHER2 typeやtriple negative typeの乳がん患者さんには、術前化学療法を受けることを勧めています。


手術に関しては、集学的治療の進歩から乳房温存手術などの縮小手術が主流となり、腋窩手術も術前画像で腋窩リンパ節腫大がなければ、侵襲の少ない、2~4個しか取らないセンチネルリンパ節生検が第一選択となっています。当院では、ICG蛍光法を用いたセンチネルリンパ節生検を施行しており、センチネルリンパ節の同定率は98.8%と高く、3-4個のリンパ節を摘出し、転移リンパ節の偽陰性率を低くしています。2011年の臨床試験の結果を受けて、センチネルリンパ節生検で2個までの転移では、放射線治療との併用によりリンパ節郭清の省略の方向に向かっており、当院では乳房温存手術で術後放射線治療と標準的な術後補助療法を受ける患者さんには、センチネルリンパ節2個までの転移であれば、腋窩郭清を省略しています。また、乳房再建手術に関しては、人工乳房による再建術が保険適応になり、同時乳房再建を希望する患者さんが増え、徐々に乳房切除の割合が増える傾向があります。
図3は、乳腺外科で手術施行した乳がん患者さんのstage別の全生存率のグラフです。5年生存率、10年生存率は、それぞれStage 0:97.2%、97.2%, Stage 1: 97.2%、93.8%, Stage 2: 87.6%、81.4%, Stage 3: 59.6%、50.8%であり、Stage別のDFSは、2004年次の全国乳癌患者登録調査と比較しても、良好な成績を得ています。
(1986-2016年、手術先行症例のみ)

当科のStage別のDFSは、2004年次の全国乳癌患者登録調査結果と比較しても、それより良好な成績を得ています。
残念ながら術後に再発された患者さんに対する再発治療についても、原発巣や転移巣のsubtypeに応じて治療方針を決定しています。再発治療の進歩は目覚ましく、種々の新規薬剤が開発・認可され、生存期間の有意な延長を認める薬剤も出てきています。
当院では、個々の患者さんの病状に応じて、手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせて、診療科、職種の枠を超えて集学的な治療を推進しています。
院内がん登録統計
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