各がんの解説EXPLANATION

乳がん

            

乳がんについて

乳がんは、女性の死亡率第4位、がん罹患率第1位、9人に1人が乳がんを発症するといわれています。乳がんの診断、治療は日々進歩しており、治療成績も向上しています。

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乳がんの診断について

診断においては、乳腺MRIの発達で微小な病変まで検出できるようになり、組織量を多く採取できるマンモトーム生検の導入によりごく早期の乳がん(非浸潤癌)を発見できるようになってきています。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群について

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)は、乳がん全体の約4%を占めています。HBOCに関与する遺伝子として、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子という2種類の遺伝子が同定されています。これらの遺伝子のどちらかに病的バリアント(遺伝子の異常)がある場合に、HBOCと診断されます。HBOCでは、若い年齢で乳がんを発症したり、両側の乳がんや、乳がんと卵巣がんの両方を発症したり、膵がんや前立腺がん(男性)を発症することがあります。HBOCの患者さんを拾い上げることは、乳がん、卵巣がんの予防につながります。

2020年からBRCA1/2遺伝学的検査が、下記のような条件を満たした乳がん患者さんには保険診療で実施できるようになりました。

①血縁者にすでにBRCA1/2 に病的バリアント保持がわかっている

②既往歴・病理学的適応
・45歳以下の乳癌発症
・60歳以下のトリプルネガティブ乳癌(TNBC)発症
・2個以上の原発性乳癌発症(両側,片側2 箇所等)
・卵巣癌,卵管癌および腹膜癌や膵癌を発症
・男性乳癌を発症

③家族歴
・第三度近親者内に乳癌または卵巣癌または膵臓癌発症者が1名以上いる

④治療適応
・HER2 陰性乳癌で化学療法歴がある手術不能や再発乳癌薬物療法,または再発高リスクの乳癌における術後薬物療法として, PARP阻害薬に対するコンパニオン診断の適格基準を満たす

第一度近親者:同胞,両親,子  第二度近親者:おじおば,祖父母,孫,おいめい  第三度近親者:いとこ,大おじ大おば

その遺伝学的検査によってHBOCと診断された患者さんは、乳がんの手術以外に、乳がんや卵巣がんの発症を未然に防ぐリスク低減乳房切除術(=反対側の乳房の予防切除)およびリスク低減卵管卵巣摘出術(=卵巣の予防切除)を、保険診療として受けることができます。また、乳がん患者さんの血縁者で乳がんを発症していない方は、BRCA1/2遺伝学的検査を自費診療で受けることができます。

当科でのBRCA1/2遺伝学的検査の実施件数は年々増えており、2020年~2024年のBRCA1/2遺伝学的検査実施件数は403例で、BRCA1/2病的バリアントありの頻度は、6% (25/403)でした(図1)。

図1バリアント割合.jpg

同期間におけるリスク低減手術の実施例は、がん患者さん(乳癌、卵巣・卵管癌、腹膜癌)38例のうち、乳房リスク低減手術(RRM)単独が1例、卵巣卵管リスク低減手術(RRSO) 単独が 2例、RRM+RRSO14例に実施しましたが、21例は、再発や挙児希望、乳房の温存希望などの理由でサーベイランスを選択しました。また、BRCA1/2病的バリアントありの血縁者15例においては、RRSO単独を1例、RRM+RRSO1例に実施していますが、13例の血縁者は自費診療でのリスク低減手術のため、スクリーニングのみとなっています。(図2

図2リスク低減手術.jpg

当院の遺伝診療部門について.png

乳がんの治療について

治療方針

治療においては、手術、放射線治療、薬物療法の集学的治療が基本となっています。治療前の生検標本または手術標本から乳がんの生物学的特徴を調べ、そのサブタイプに沿って治療方針を決定しています。

乳がんは、実臨床上ER(Estrogen receptor)、HER2、Ki67(増殖能マーカー)の発現形式によって大きく5つのサブタイプに分けられます(表1)。それぞれのサブタイプによって悪性度や薬剤感受性が異なるため、治療方針が違います。悪性度が高く、抗癌剤感受性が高いトリプルネガティブ乳がんやHER2陽性乳がんで、術前化学療法により病理学的完全奏効(pathological Complete Response(pCR):癌の遺残がない)が得られた患者さんは、pCRが得られなかった患者さんに比べて、有意に生存率が高いことが示されています。トリプルネガティブ乳がんでは、術前化学療法に新規薬剤が保険承認されたため、再発リスクをより低くできるようになります。HER2陽性乳がんにおいては、術前化学療法後の手術で癌が消えていなかった場合でも、術後補助療法の抗HER2療法剤を変えることにより再発リスクが低くなります。これらの結果を基にトリプルネガティブ乳がんやHER2陽性乳がんの患者さんには、術前化学療法を受けることを勧めています。

表1:5つのサブタイプとそれぞれの治療内容
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注) 1) ICI:免疫チェックポイント阻害剤、2)BRCA1/2遺伝学的検査陽性の場合

術後の補助療法(再発予防の治療)の方針が、ここ数年で大きく変わりました。ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんにおいては、術後病理結果の腫瘍の大きさ、リンパ節転移の個数などを基に再発リスクが高い患者さんには、内分泌療法にTS-1またはベージニオ(CDK4/6阻害剤)を併用することで、さらに再発リスクを低下させます。

術前または術後の化学療法を受けた再発リスクが高いHER2陰性の乳がん患者さんでかつ、BRCA1/2遺伝学的検査で病的バリアント陽性の患者さんには、術後補助療法としてリムパーザ(PARP阻害薬)を投与することで、再発リスクを低下させることができます。

手術療法

手術に関しては、集学的治療の進歩から乳房温存手術などの縮小手術が主流となり、腋窩手術も術前画像で腋窩リンパ節腫大がなければ、侵襲の少ない、2~4個しか取らないセンチネルリンパ節生検が第一選択となっています。当院では、ICG蛍光法を用いたセンチネルリンパ節生検を施行しており、センチネルリンパ節の同定率は98.8%と高く、3-4個のリンパ節を摘出し、転移リンパ節の偽陰性率を低くしています。術後に放射線治療と標準的な術後補助療法を受ける患者さんには、センチネルリンパ節2個までの転移であれば、腋窩リンパ節郭清を省略しています。

乳房再建手術に関しては、人工乳房による再建術が保険適応になり、同時乳房再建を希望する患者さんが増えており、形成外科と協力して同時乳房再建を実施しています。

再発乳癌の治療

残念ながら術後に再発された患者さんに対する再発治療についても、原発巣や転移巣のサブタイプに応じて治療方針を決定しています。再発治療の進歩は目覚ましく、種々の新規薬剤が開発・認可され、生存期間の有意な延長を認める薬剤も出てきています。

当院では、個々の患者さんの病状に応じて、手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせて、診療科、職種の枠を超えて集学的な治療を推進しています。  

【更新履歴】
2025.11.27 動画追加(乳がんを知ろう)
2025.11.28 動画追加(当院の遺伝診療部門について)
2026. 1. 7 解説更新(遺伝性乳がん卵巣がん症候群について、手術療法)