各がんの解説EXPLANATION

頭頸部がん

            

頭頸部がんについて

頭頸部領域とは、頭側は「脳を支える頭蓋底の骨」、尾側は「鎖骨やその下の上縦隔」までの範囲であり、ここにできる腫瘍・がんが、頭頸部腫瘍・頭頸部がんです。

頭頸部領域は、「人が生きる」・「社会生活を営む」上で重要な機能が集中しています。その機能とは、食事(咀嚼や嚥下)、発声、呼吸などであり、この部位に障害が起こると直接QOL(生活の質)に影響を与えます。故に、この領域の治療は根治性と機能温存のバランスを熟慮する必要があります。また、顔面の形態維持や表情の形成を要するのも頭頸部領域特有のことであり、整容的な配慮も欠かせません。

頭頸部がんの危険因子について

頭頸部がんは中高年の男性に多く発生します。がんの種類や部位によっては女性や若年者でも発生することがあります。原因を挙げると、「口腔・咽頭がんは喫煙、飲酒、口腔衛生不良など」、「喉頭がんは喫煙」と生活習慣や嗜好歴に左右されます。禁煙や節酒、口腔ケアで発症をある程度抑えることができます。特に、飲酒すると赤ら顔になる好酒家や大酒家の方は、咽頭がんの発生リスクが約10倍上がりますので注意が必要です。また咽頭がんの一部では、ウイルス感染により発生する場合もあります。甲状腺がんは放射線被爆の既往や遺伝子の突然変異により発生します。唾液腺がんは未だ原因不明なものが多いですが、喫煙との関連が報告されています。

頭頸部がんの診断について

頭頸部がんを早期発見するための健康診断は行政的にはなく、自覚症状での受診や他科の診察で偶然発見されることで受診されることが多いのが現状です。上述の危険因子をお持ちで、何らかの症状がある方は積極的に受診していただきたいと思います。40歳以上の方は、定期的な上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が推奨されていますので、その際に発見されることもあります。

口腔・咽頭がん、喉頭がんの診断には、腫瘍の一部を摘み取り確定診断をつけます(組織診断)。甲状腺がんや唾液腺がんのような咽喉頭腔以外の部位では、頸部超音波検査で病変を確認しながら穿刺吸引細胞診を行います。これら検査により、「がん」と診断されれば、CTやMRIなどでの局在診断やPET/CTによる全身評価を行い、最終的に決定した臨床病期に合わせて最適な治療方針をたてます。

当院では、NCCNガイドライン(世界標準)や頭頸部癌診療ガイドライン(本邦)に則した治療方針をもとに極力機能温存を図るよう心がけています。

頭頸部がんの治療について

耳鼻咽喉科・頭頸部外科では、あらゆる頭頸部領域の治療に対応しており、適切な術前評価のもとで、最適な治療を提案させていただきます。耳鼻咽喉科・頭頸部外科のみではなく、必要に応じて、形成外科、消化器外科、消化器内科、脳神経外科、歯科口腔外科などとも協力してベストな治療を行います。

当科での特徴的な治療

早期の咽喉頭がんに対しては、低侵襲で機能温存(音声機能温存)が望める内視鏡下経口的咽喉頭手術(E-TOS)を積極的に行っております。進行がんに対しては、再建手術を含めた根治拡大手術と術後(化学)放射線治療を行い、満足すべき治療成績を得ています。

昨今、(化学)放射線治療をよく行う施設がありますが、当科では、基本的に根治手術をお勧めします。理由としては、平均余命が延びていることが主に挙げられ、治療後10年を目途に放射線治療に伴うがん(放射線性誘発がん)を経験しているからです。特に比較的若い方、治療時点で平均余命が長いことが予想される方には手術を強くお勧めします。もちろん、ご本人の意思を最も尊重しており、治療内容はご本人に選んでいただきます。

また、頭頸部領域の中でも悪性度の高い口腔がんに対しても、機能温存と高い根治率を誇っています。術後合併症を抑える創傷被覆も工夫しており、術後の苦痛軽減に努めています。
さらに、鼻腔・副鼻腔のがんに対しては、内視鏡手術を併用する事で顔面への切開を避けつつ、確実な切除を心がけています。病状によって、より最適な手段を相談させていただきます。

機能温存が厳しい症例でも症例を吟味して、積極的に機能温存治療を行っております。また、進行がんに対しても諦めることなく積極的に治療を行っています。

現在、頭頸部がん専門医・指導医1名、3名のがん治療認定医(1名が指導責任者資格)、甲状腺外科専門医1名を中心に治療を担当しています。豊富な経験と実績に基づき、頭頸部がん指定研修施設、内分泌・甲状腺外科認定施設にも認定されています。

今後のトピックス

ロボット支援下手術の施設認定を受ける予定です。認定を受ければ、大阪初の咽喉頭がんに対するロボット支援下経口的咽喉頭手術が開始できるようになり、新たな治療選択肢を提供できるようになると思われます。