各がんの解説EXPLANATION

大腸がん

            

大腸がんについて

大腸がんは、大腸に発生するがんで、近年、増加傾向が著しく、2018年度のがん罹患数予測でも日本でもっとも発生頻度の高いがんとなることが推定されています。大腸がんは男女とも増加傾向にあり、大腸がんによる死亡数は女性では第1位、男女計でも第2位となっています。多くのがんは、男性のほうが女性よりも多いことが知られており、女性優位のものは乳がんや子宮がんなどの女性特有のものだけです。これに対して、大腸がんはその死亡率に男女差が少ないことが特徴とされています。

大腸がんの原因は十分解明されていませんが、食生活の欧米化との関連性が示唆されています。大腸がん発生頻度は十年以上前から、欧米より日本のほうが多くなっています。米国では1970年代に日本食がベストの食事内容であるとの調査報告がなされ、徐々に食生活を変化させてきており、大腸がんをはじめ各種がん腫による死亡は減少傾向と言われています。日本食の本家であるわが国では依然としてがん死亡は増加しており、日本人もそろそろ食生活を考え直す必要があると思われます。

大腸がんの発見および診断について

大腸がんは早期に診断・治療できれば治癒する可能性が十分あり得るがんのひとつです。

早期発見するためには検診を受けることがもっとも大切ですが、血便を契機に早期発見できることも少なくありません。大腸がんの部位別頻度は、直腸とS状結腸がもっとも多く両者で半分以上を占めます。この部位は肛門に近く、がんが発生すると便の表面に血液が付着するいわゆる血便を認めることがあります。血便や急な便通変化といった自覚症状以外に大腸がんを発見する方法は、大腸がん検診を受けることです。大腸がん検診の方法は便潜血法という、便中に含まれた血液を高感度検出法で検出し、肉眼で見えない血液の付着混入を調べる方法です。

大腸がんが発生しているとがん表面から染み出した血液が形成過程の便に混入したり、肛門に近づくと便の表面に付着したりします。この肉眼で見えないレベルのわずかな血液を検出することで、大腸がんの存在を推測する方法が便潜血法です。便潜血法は現在、免疫法という高感度法が用いられています。ヒトヘモグロビンに特異的に反応する抗体を使用することで、食べ物に含まれる血液や鉄分の影響を排除し、人体からの出血だけを見つけ出すことが可能となっています。便潜血法(二日法)による大腸がん発見率は、進行がんで約80%、早期がんで約50%とされています。検診受診者の6~7%が便潜血陽性との報告があり、便潜血陽性例の大部分は肛門通過時に便表面に付着する目に見えない血液を拾い上げているもので、便潜血陽性=大腸がんというわけではないのでご安心ください。

一方で便潜血陰性であっても大腸がんが隠れている可能性があることは十分理解しておく必要があります。つまり便潜血法というのは、大腸検査を受けるきっかけにするという意味合いが強いと考えられます。便潜血をきっかけに大腸の内視鏡検査を受けてみることを考えるようになりますので、便潜血検査は大腸検査を受けるきっかけとなるひとつの方法なのだと理解してください。

大腸がんの検査について

大腸がんを発見するために、内視鏡検査を受けることが重要です。内視鏡検査とは、肛門から内視鏡を挿入して曲がりくねった大腸のなかを進めながら、大腸の内腔を観察する検査です。大腸は屈曲部が多い臓器であり、スコープを挿入するには技術を必要とします。当院では検査の際、できるだけ不安を和らげる目的で、鎮静剤を注射して検査を行っています。内視鏡検査時に大腸の内腔に便が残っていると病期の発見に支障がでてしまいます。このため、大腸の内視鏡検査に先立って腸内を空っぽにする必要がありますので、腸の内容物を洗い流すためのお薬を飲んでいただく必要があります。当院では、検査前日夜に下剤を服用していただき、検査当日、午前中に約1~2Lの腸管を洗浄するための液体を服用していただいております。以前は、腸管を洗浄するための液体は飲みにくいと言われていましたが、メーカーの開発で最近は随分飲みやすくなってきています。
大腸内視鏡検査は、大腸がんの発見だけでなく、大腸ポリープの診断と治療を行うことができます。大腸ポリープというのは大腸にできる"できもの"の総称で、そのなかにはがん、腺腫という良性腫瘍、過形成というただのイボ、など色々なものが含まれています。この中で、腺腫と呼ばれるポリープは、がんの芽のようなものであり、良性の腺腫の段階で内視鏡を使って切除することにより、がんを芽のうちに摘み取ることができると考えられています。
当院の大腸内視鏡検査・治療件数は大阪府下で有数であり、経験豊富なスタッフがそろっていますので、安心して検査を受けに来てください。

当院の大腸内視鏡検査(2018年)

件数: 4,480件
内視鏡的ポリープ切除: 1,450件
そのうちの大腸がん数: 171 件

大腸がんの治療について

大腸がんの進み具合は、がんの進達度、リンパ節転移、ほかの臓器への転移の有無によって5段階の病期(ステージ)に分類されます。大腸がん治療には、①内視鏡的切除、②外科的手術(腹腔鏡または開腹手術)、③抗がん剤治療、④放射線治療がありますが、治療の中心となるのは内視鏡的切除、あるいは外科的手術です。

[早期大腸がんの内視鏡的切除]

内視鏡検査により早期に発見された大腸がんは、内視鏡的切除を行うことで治癒します。内視鏡的切除法としては、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などの方法があります。もし内視鏡的切除後の病理組織検査により、がんが予想よりも深く進達していた場合や、血管の中に入り込んでいたことがわかった場合には、追加で外科的手術が必要となることがあります。

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図:早期大腸がんの内視鏡的切除

[ 腹腔鏡手術 ]

最近は、全国的に大腸がんの手術は腹腔鏡手術が増えてきています。当院でも90~95%の症例で行っています。腹腔鏡手術を行うことで、拡大視効果による的確な剥離層の把握、神経損傷の回避、術中出血量の減少が可能となり、また術後疼痛の軽減による早期離床、術後腸管麻痺や癒着性腸閉塞の予防などが期待でき、患者さんに対するメリットが大きいと考えられます。

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[直腸がんに対する治療と機能温存手術]

結腸がんと比較して予後の悪い直腸がんの場合には根治性の向上を目指し、術前の化学療法や放射線化学療法を組み合わせた集学的治療を症例に応じて積極的に行っています。 一方、直腸がんの症例に対してはより神経温存手術を意識する必要があり、性機能・排尿機能・排便機能や肛門温存などに注意を払わなければなりません。当院では、大腸がん手術の根治性が担保されるようであれば、全例自律神経温存手術を行い、また下部直腸がんの症例に対しても進行度に応じて超低位前方切除術(肛門管内DST)や括約筋間直腸切除術(ISR)を行って可能な限り肛門機能温存を目指しています。 さらに2018年4月からは直腸癌に限り、ロボット支援下手術が保険適用となり、当院でもその厳しい施設基準をクリアして行っています。従来の腹腔鏡手術よりもさらに精緻な手術が可能となり、より生活の質(QOL)のよい肛門温存手術ができるようになりました。当院ではこれまで200例近くのロボット支援下直腸癌手術を行なっております。

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肛門管内DST        ISR

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ロボット支援下手術の特徴

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ロボット支援下手術操作

[抗がん剤治療]

大腸以外の臓器にすでに転移をしているような大腸がんや、手術後に再発した進行大腸がんに対しては抗がん剤治療(化学療法)が行われます。化学療法は、抗がん剤や分子標的薬などの薬物を使ってがん細胞の増殖を抑えたり死滅させたりする治療法です。抗がん剤には5-FU、オキサリプラチン、イリノテカンなどの薬剤があり、分子標的薬としてはベバシズマブやパニツムマブなどの薬剤があります。抗がん剤2剤と分子標的薬を併用することが多いです。薬剤の組み合わせと治療スケジュールのことをレジメンといいます。大腸がんには、mFOLFOX6+ベバシズマブやFOLFIRI+パニツムマブなどのレジメンがあります。近年、京都大学の本庶博士のノーベル賞受賞でも話題となった免疫チェックポイント阻害剤が大腸がん治療でも使用可能となり、化学療法の治療効果が飛躍的に向上してきています。

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図:大腸がんの肝臓移植に対する治療効果

抗がん剤治療により多発していた大腸がんの肝転移が著明に縮小しました。

抗がん剤による副作用対策は重要です。支持療法(副作用を軽くする薬)や適宜休薬することにより、副作用を最小限にとどめ、生活の質(QOL)を保って、治療を続けることが目標です。CT等の画像検査で効いているかどうか判断し、副作用がなく、効果がみられる間は継続、効果が見られなかったり副作用が強く出たりした場合は違う薬剤に変更(2次治療)します。有効な薬剤を継投して使用することにより、長期生存を目指します。

[閉塞症状の強い大腸がんに対する治療]

高度な閉塞症状で見つかった大腸がんは従来緊急手術が必要となり、人工肛門造設術や数回に渡る手術が必要なことも度々でした。しかし最近では、消化器内科医により可能な限り腸管金属ステントや経肛門的イレウス管を留置して減圧を図り、待機的手術を行うようになりました。この方法は患者さんに対するメリットが非常に大きいと考えています。腸閉塞解除後の待機的手術では、全身状態も比較的安定しており、がんの進行度もより正確に診断ができ、術野の汚染も避けられますので周術期の合併症の軽減や人工肛門の回避、治療期間の短縮につながっています。

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