各がんの解説

膵がん

膵がんについて

膵がんはそのほとんどが膵臓内部の膵管(膵液の流れる管)に発生します。一般的に膵がんといえばこの膵管にできたがん(膵管がん)のことを指し、通常型膵がんともいいます。 厚生労働省による平成27年人口動態統計における膵がんの年間死亡者数は31,866人と増加傾向にあり(図1)、悪性新生物による死因の男性5位(16,186人)、女性では乳がん(5位)を上回る4位(15,680人)になっています。(表1)

(図1)がん統計予測(国立がん研究センター)

(表1)がんの死亡者数(2015年)

罹患者数(膵がんにかかった人の数)と死亡者数(膵がんで死亡した人の数)がほぼ同じであるため、難治性のがんの代表とされています。2003年〜2005年のがん統計調査での膵がんの5年生存率は7%と報告されています。日本膵臓学会による1981年~2004年全国350施設から32,619症例の登録調査報告でも膵がんの患者の予後は非常に悪いですが、年代別にみると若干ではあるものの改善傾向となっており(図2)、近年の診断や治療の進歩によるものと考えられます。特に大きさ1cm以下の膵がんの5年生存率は80.4%、大きさ1-2cmの膵がんの5年生存率は50%と報告されており(図3)、膵がんの手術後に良好な生命予後を得るためには、Stage I A(腫瘍が膵内に限局しており、最大径が20mm以下でリンパ節転移が無いもの)以下の段階での早期診断が必要です。

(図2)膵がんの年代別の生存率

(図3)膵がんの腫瘍サイズ別の生存率

膵がんの危険因子について

黄疸や上腹部痛・背部痛、体重減少などの症状が出現した時点で診断された膵がんの大半は進行期であり、残念ながら長期の生存は期待できません。したがって、早期に診断するためには症状が出現する前に高リスク群を囲い込み、適切な検査を行い、フォローアップすることが肝要です。膵がん診療ガイドライン2016年版によると膵がんの危険因子としては家族歴、喫煙歴、飲酒歴の他に合併疾患として糖尿病、肥満、慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍の存在などが挙げられています(表2)。

(表2)膵がんの危険因子
家族歴

膵がん患者の3-10%は膵がんの家族歴があり、家族に膵がんがいる場合の膵がんになるリスクは1.70-2.41倍と言われています。なかでも第一度近親者(親、兄弟姉妹、子)に2人以上の膵がん患者がいる家族性膵がん家系における膵がんのリスクは一般集団の6.79倍高いとの報告があります。また、家族性膵がん家系で50歳未満の若年発症の膵がん患者がいる場合は、リスクが9.31倍に上昇するとされています。

糖尿病

2型糖尿病患者の膵がんリスクは1.94倍と報告され、危険因子ではあるもののリスク比はそれほど高くありません。一方で膵がん患者の糖尿病の既往や合併については、本邦の大規模疫学調査では25.9%、米国では60-81%とされています。これらには背景因子としてのリスクと、膵がんに伴う二次的な発症の両者が含まれると考えられます。糖尿病の新規発症あるいは増悪時には注意を要するため、かかりつけ医や糖尿病専門医にも糖尿病と膵がんの関連について認識してもらう必要があります。

膵嚢胞、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、慢性膵炎

膵嚢胞(袋状のもの)や膵管拡張は膵がんの存在を示唆する重要な徴候と考えられており、なかには腹部超音波検査やCTによる画像診断では腫瘤として描出が困難な小膵がんが存在する場合があります。
 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は膵管の中に粘液を作る腫瘍が発生し、溜まった粘液のために膵管が拡張したり膵嚢胞ができる病気です。膵がんの発症母地として注目される嚢胞性病変ですが、IPMNのがん化のみならずIPMNに通常型膵管がんが併存する場合があります。膵管分枝が拡張して嚢胞状となる分枝型IPMNの前向き観察研究では年間の膵がん発生率は1.1-2.5%と報告されています。
 慢性膵炎でも膵嚢胞や膵管拡張がしばしば観察され、わが国での後ろ向き研究では慢性膵炎患者での膵がん発生率は健常者と比べて11.8倍と高く、海外の前向き観察研究でも膵がん発生率は健常者と比べて6.9倍高く、診断から4年以内では14.6倍、診断から5年以降では4.8倍との報告があります。したがって、IPMNを含めた膵嚢胞性病変、膵管拡張、慢性膵炎などが、臨床的意義の高い膵がんの高リスク群と考えられています。
 膵がんは年齢が上がるにつれて発生率が増加しますが、危険因子を有する場合には、膵がんを念頭にいれたスクリーニングを定期的に行うことが望まれます。

膵がんの症状について

腹痛、食欲不振、早期の腹満感、黄疸、体重減少、糖尿病の新規発症、腰背部痛などがあります。初期には食欲不振や嗜好の変化などの漠然とした症状であることが多く、他の腹部疾患でも同じような症状が出ることもあり、早期の診断につながる膵がん特有の症状はありません。わが国の膵がん集計によると初発症状のない膵がんは15.4%であったと報告されています。

膵がんの診断法について

膵がん診療ガイドライン2016年版では、臨床症状は膵がん早期診断の指標とはなりませんが、腹部症状や糖尿病の発症がみられた場合は膵がんの可能性を考慮して検査を行うことを推奨しています。膵がんの高リスク群に対しては膵がん診断に一定の有用性がある腫瘍マーカーや血中膵酵素を測定し、腹部超音波検査を行うことが推奨されています。その結果、異常所見があれば造影CT、造影MRI、MRCP、超音波内視鏡検査などによる精査を行う診断アルゴリズムが提唱されています。

腫瘍マーカー

膵がんの腫瘍マーカーにはCA19-9, SPan-1, DUPAN-2, CEAなどがあります。異常値を示す割合(陽性率)はCA19-9で70-80%、SPan-1で70-80%、DUPAN-2で50-60%、CEAで30-60% ですが、早期の膵がんでは腫瘍マーカーは異常値を示さないことが多いことに注意が必要です。

腹部超音波検査

腹部超音波検査は簡便で患者さんへの負担のない安全な検査法として、外来診療や健診において有用です。ただし、消化管のガスや肥満により超音波が反射・減衰し、膵の描出が困難な場合があり、病変の存在する部位によっては腹部超音波検査だけでは発見できないことがあります。腹部超音波検査による小病変の描出率は低いですが、膵管の拡張や嚢胞の存在などの間接所見が膵がんのスクリーニングに有用であるとされています(図4)。

(図4)腹部超音波検査
造影CT/ MRI/ MRCP

造影CT(ダイナミックCT)では病変の大きさ、位置、広がり(周囲の血管や臓器との関係、転移の有無)をとらえることができるほか、造影効果により病変の質的診断が可能です(図5)。
 MRIはCTと異なりX線被曝がないため、短期間に繰り返し検査しても心配がありません。MRI拡散強調画像が膵がんの診断に有用です。また、膵がんでは膵管に異常があることが多いため、MRIを用いて膵管および胆管を低侵襲に描出することができるMRCP(磁気共鳴胆管膵管造影検査)を実施することで、CT あるいは MRIの診断を補助することとなります(図6)。

(図5)造影CT

(図6)MRCP

超音波内視鏡検査(EUS)

EUS は先端に超音波プローブを備えた内視鏡を使って胃や十二指腸などの消化管壁を越しに膵臓や胆道などの周囲の臓器を調べる画像検査法です(図7)。体表からの超音波検査にくらべて消化管ガスの影響を受けることがほとんどないため、胃や十二指腸に取り囲まれた膵臓の観察に優れています。空間分解能に優れ、CTでは描出できない小膵がんも検出することが可能です。また、EUS-FNA(EUSガイド下穿刺吸引法)といって消化管からEUSで膵臓の腫瘤を直接観察しながら針で刺して組織や細胞を採取し、これを顕微鏡で観察することで病理診断することが可能です(図8、9、10)。

(図7)超音波内視鏡

(図8)EUS-FNA

(図9)細胞診

(図10)組織診

ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影法)

膵がんでは多くの場合で膵管に異常を認めるため、ERCPといって内視鏡を使って膵管に直接造影剤を入れてレントゲン撮影することで膵管の形を詳しく調べることができます(図11)。最近では膵炎などのERCPに伴う偶発症を考慮して、膵管の観察目的では代わりに侵襲の少ない MRCP を行うことが多くなっています。しかし、ERCPは膵液に含まれる細胞を採取することができる検査であり、特に早期膵がん(上皮内がん)の病理診断には重要な検査法です。

(図11)ERCP

膵がんの治療について

膵がんの治療法は各種画像診断によって決定される膵がんの病期によって異なります。病期とはがんの進行度を表すもので、膵がん取扱い規約第7版ではTNM 因子(T:膵局所進展度、N:リンパ節転移、M:遠隔転移)という3つの因子から規定され、Stage 0, IA, IB, IIA, IIB, III, IVに分類されます。膵がん診療ガイドライン2016年版の膵がん治療のアルゴリズムによると病期に従って治療方針が決定されます。(図12)
すなわちStage 0, IとStage IIのほとんどのものは切除可能と判断して外科的治療(手術)が行われますが、Stage IIIのものではがんが膵臓をこえて広がり、腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈に及んでいるため手術したとしても肉眼的にもがんが遺残してしまうと考えられ、その多くは切除不能(局所進行膵がん)と判断されます。Stage IIIの局所進行膵がんでは抗がん剤治療(化学療法)や抗がん剤治療と放射線治療の併用(化学放射線療法)が行われます。Stage IVのものではがんが肝臓や肺などの他臓器に転移している場合であり、同様に切除不能(遠隔転移膵がん)と判断され、抗がん剤治療が行われます。

(図12)膵がん治療のアルゴリズム

切除可能境界膵がんについて

Stage IIとStage IIIの膵がんの一部では、がんが動脈の半周以下にだけ接している場合は、切除できる可能性があるものの、切除可能か切除不能かの判断が困難です。このような膵がんを「切除可能境界膵がん」と言います。 膵臓のまわりには門脈、総肝動脈、上腸間膜動脈または腹腔動脈という重要な血管があります。膵がんでは、がんを切り取った場所にがんが残らない手術を目指すことが、完治するために重要であるといわれています。しかし、切除可能境界膵がんでは、がんが膵臓のまわりのこれらの血管に接しているため、いきなり手術を行ってもがんが残ってしまう可能性が高いと考えられています。
 当院では京都大学医学部付属病院を中心とした多施設共同臨床研究である「切除可能境界膵がんに対するゲムシタビン・IMRT併用による術前化学放射線療法の第Ⅱ相臨床試験」に参加しています。この臨床試験では、切除可能境界膵がんに対して、高精度照射技術を導入した強度変調放射線治療(IMRT)と抗がん剤であるゲムシタビンとの併用療法(化学放射線療法)を行うことで手術の前にがんをある程度小さくしてから手術を行い、完全にがんを切除できる患者さん(組織学的治癒切除例)をどれくらい増やすことができるかを調べることを目的としています。

膵がんの早期診断を目指した当院の取り組み
 −「大阪早期膵がんプロジェクト」について−

膵がんの早期診断目的とした地域医療連携として広島県尾道市医師会とJA尾道総合病院の取り組みは「尾道プロジェクト」として知られています。かかりつけ医の診療所で膵がんの高リスク群に対する腹部エコーと血中膵酵素測定を行い、JA尾道総合病院では専門的な検査を行うことで、小膵がんの診断と治療に大きな成果をあげています。
 都市部においては、一つの医療圏に多数の総合病院が存在し、また医療圏の枠組みもあいまいであるため、地域型の膵がんプロジェクトとは異なったアプローチが必要であると考えられました。当院は当初大阪市北ブロックの医師会(北区医師会、大淀医師会、東淀川区医師会、都島区医師会)と4つの基幹病院(田附興風会医学研究所北野病院、淀川キリスト教病院、大阪市立総合医療センター、大阪府済生会中津病院)で始まった都市型プロジェクト「大阪市北部早期膵がんプロジェクト」に参加しています。現在は大阪市東ブロックや中河内ブロックの医療機関とも連携を進めつつあり、本プロジェクトを「大阪早期膵がんプロジェクト」に発展・改称いたしました。病診連携にあたっては5つの基幹病院で共通のクリニカルパスを用いて行い、診療所などの地域医療機関からいずれの基幹病院に紹介いただいても同じ基準で経過観察しています(図13)。プロジェクト開始後の5病院の膵がんの全症例数は経時的にはやや増加しつつあります(図14)。プロジェクト開始前の膵がん切除率は20%前後でしたが、現在では30%前後まで改善傾向となっています(図15)。膵がん取り扱い規約第7版では膵局所進展度(T分類)は非浸潤がん (Tis)、腫瘍径によってT1a(5mm以下)、T1b(5-10mm)、T1c(10-20mm)に分類されますが、切除例の最終病期がStage 0(非浸潤がん)またはStage IA(腫瘍が膵内に限局しており最大径が20mm以下のもの)の膵がんの膵局所進展度(T)について検討したところ、以前は小さい膵がんといってもT1c(10-20mm)しか見つかりませんでした。プロジェクト開始後にT1b(5-10mm)が見つかるようになり、2015年からはT1a (5mm以下)とTis (非浸潤がん)が見つかり始めました(図16)。

(図13)医療連携のコンセプト

(図14)5病院の膵がんの全症例数

(図15)膵がんの切除率の推移

(図16)Stage 0-IA症例における膵局所進展度(T)の推移

膵がんを早期に診断するためには、膵がんの高リスク群を拾い上げ精査を勧めることが必要であり、そのためには日常的に多数の患者さんの診療にあたっておられるかかりつけ医の協力が欠かせません。腹部超音波検査で膵嚢胞や膵管拡張を見つけた場合はもちろんのこと、糖尿病の新規発症や原因のわからない血糖値の悪化があれば、膵臓の精査をお勧めいただくようにお願いしています。当院は地域医療連携室を通じてかかりつけ医とのコミュニケーションを密にすることを心がけ、地域医療支援病院として病診・病病連携を推進し患者さんとかかりつけ医から信頼される病院を目指したいと考えています。

手術の方法について

a)膵頭十二指腸切除術(図1,2)

膵頭部にできたがんに対しては、標準的に膵頭十二指腸切除術を施行します。膵頭部では、肝臓で作られた胆汁という消化液が十二指腸に流れ出るための胆管という管と、膵臓で作られた膵液という消化液が十二指腸に流れ出るための膵管という管の二本のルートが、膵頭部の中を通って一つになって十二指腸に開口しています。このため、膵頭部の腫瘍を切除するためには、膵頭部と十二指腸さらに肝臓から出てすぐの胆管・胆嚢をまとめて切除する必要があります。さらにがんは周囲のリンパ節・脂肪組織・神経組織に広がることがあるため、これらも合わせて摘出します。広がりの程度が、膵臓に接する門脈にまで及んでいる場合には、これも合わせて切除し、縫い合わせます。
 この膵頭十二指腸切除術では、食べ物の通り道(胃から十二指腸)と消化液の通り道(胆管・膵管)を途中で断ち切るので、切除した後にこれらの通り道を作り直す必要があります(再建といいます)。小腸を持ち上げ、順番に膵臓と小腸、胆管と小腸、胃と小腸をつなぐことで食べ物と消化液が混ざって流れていくことが可能になります。手術後は、合併症予防および必要に応じて治療をする目的にお腹に3本管が入ることが多いです。
 広範囲の切除と3箇所の再建があり、非常に手間のかかる手術となるため、体に大きな負担がかかる手術となります。手術時間は平均7-8時間、出血は500-1000mlとなり輸血を要することもあります。手術後は集中治療室に入室し、翌日以降に一般病棟に戻ります。手術後の回復にも時間がかかるため、術後約3週間で退院となります。

(図1)

(図2)

b)膵体尾部切除術(図3,4)

膵体尾部にできた腫瘍に対しては標準的に膵体尾部切除術を施行します。
 膵の左側には脾臓という主に免疫能の維持を行う臓器がありますが、脾臓を栄養する血管が膵臓に張り付いています。がんは周囲のリンパ節・脂肪組織・神経組織に広がることがあるため、これらも合わせて摘出しますが、この際に脾臓も一緒に摘出します。また、がんの広がりが近くの胃・大腸・副腎にまで及んでいる場合はこれらも合併切除することがあります。
 膵体尾部切除術では、膵臓で作られた膵液という消化液が流れる出口を切除しないので、通り道を作り直す再建は必要ありません。膵液の通り道を途中で離断するため、逆流して膵液が漏れることがないように、離断面を閉鎖することが必要になります。手術後は合併症予防および必要に応じて治療をする目的にお腹に1本管が入ることが多いです。
 従来開腹手術が一般的でしたが、最近がんの広がりが軽い場合には、術後の回復が早い腹腔鏡手術も行っています。ロボット支援下膵体尾部切除術も2020年度に開始予定です。手術時間は平均4時間、出血は300-500mlとなります。手術後は一般病棟に戻ります。手術後の回復にある程度時間がかかるため、術後2週間で退院となります。

(図3)

(図4)

手術の合併症・後遺症について

膵臓の手術は大変大きな手術になることが多く、また膵臓自体の特殊性もあり、ほかの腹部手術に比べると術後の合併症の頻度が高くなります。最近は手術手技や術後管理の向上、手術器械の進歩などによる命にかかわるような重篤な合併症は比較的まれになりました。しかしながら軽度の合併症を含めると半分近くの方に何らかの合併症が起こります。
 合併症には、入院中に起こるような早期の合併症と、退院後に起こるかもしれない晩期合併症があります。

a)早期合併症(入院中に起こるかもしれない)

  • 術後出血:術後に手術部位からの再出血をきたすことがあります。非常にまれ(数パーセント以下)ですが、時に緊急で再手術を必要とすることがあります。
  • 感染(創部):創部が化膿することがあります。洗浄処置や抗生剤治療が必要になることがあります。
  • 感染(腹腔内膿瘍):お腹の中に膿が溜まることがあります。お腹に入れた管から膿を外に出すことや追加で管を増やす処置を行うこともあります。他の合併症(膵液瘻や胆汁漏)を伴っていることが多いです。
  • 縫合不全(膵頭十二指腸切除術の場合):膵臓と小腸、胆管と小腸、胃と小腸という各つなぎめの治癒が悪く、消化液がお腹の中に漏れ出してしまうことです。頻度はつなぎめによりますが、膵臓と小腸は20-30%、胆管と小腸は5%程度、胃と小腸は数パーセント未満となっています。
  • 膵液瘻:膵臓と小腸の間の縫合不全の結果、もしくは膵臓の切離面から膵液が腸の中を通らずに、お腹の中に漏れてしまう状態です。膵液はタンパク質や脂肪に対する消化酵素を多く含むため、もし膵液瘻となった場合、お腹の中で強い炎症を起こします。そこに細菌感染を起こすと膿瘍を作ってしまうので、そうならないように抗生剤治療や体の外にその溜まりを出す処置を行うことがあります。膵液が出ないように長期間の絶食が必要になることもあります。また非常にまれではありますが、血管の周りを溶かして出血をきたし命に関わることがあり、緊急で処置や手術が必要になることもあります。このような事態にならないように細心の注意を払いますが、膵液瘻自体の頻度は比較的高く、その治療に数週間要することがあります。
  • 胆汁漏:胆管と小腸の間の縫合不全のことで胆汁が腸の中を通らずに、お腹の中に漏れてしまいます。胆汁も消化液なので、周囲の組織を傷つけますが、膵液瘻ほど大きな問題になることは少なく、手術のときにお腹に入れた管で胆汁を体の外に出す処置のみで経過をみることが多いです。

〈腹部手術全般に起こりうる合併症〉

  • 血栓症:手術中や手術後に長時間臥床していると、特に下肢の血液が静脈の中でうっ滞して固まり、血栓を作ることがあります。これが肺に飛んで肺塞栓が起こると、時に致死的になります。その予防として、術中の下肢マッサージや術後の抗血栓薬を使用します。
  • 腸閉塞:腸管の麻痺や癒着のため腸の内容物の通りが悪くなり、排便・排ガスがなくなり、お腹が張ったり痛んだりします。術後早期に生じる場合と、退院して期間があいてから生じる場合があります。絶食や手術が必要な場合もあります。
  • 呼吸器(肺炎・無気肺・胸水など)、循環器(狭心症・心筋梗塞・不整脈・心不全など)、脳(脳梗塞など)の合併症など:手術前に十分に検査を行っていても、全身麻酔による手術に伴い、合併症が起こる可能性が通常生活しているよりも少し高くなります。何か起こった場合はすぐに対応させていただきますが、それでも一度発症してしまうと命に関わることもあります。

b)晩期合併症(退院後に起こるかも知れない後遺症)

  • 食事摂取不良、低栄養
     消化酵素を作る膵臓を切除するため、消化能力が低下します。またがんの手術ではがんが神経に浸潤することもあり神経を広く切除することや、膵頭十二指腸切除術の場合食べ物や消化液の流れ道が変わることなどから、食べられる量が減ったり、十分に量を食べていても栄養不良状態が続くことがよくあります。退院時に栄養士から食事の内容や食べ方について説明をさせていただきますが、そのほか消化剤などを必要とすることもあります。退院後には一時的に体重が1割近く減少し、数ヶ月から一年かけて徐々に良くなることが多いですが、手術前に近い状態まで回復しないこともあります。
  • 下痢
     がんの手術ではがんが神経に浸潤することがあるので、膵周囲の神経を広く切除します。このため消化機能が低下し、下痢をおこしやすくなります。食後すぐに便意をもよおしたり、一日に何回も水様便が出ることもあります。薬でコントロールを行いますが、なるべく消化の良い食事を、少量ずつ何回かにわけて取るようにしましょう。
  • 耐糖能異常
     血糖値を調整するホルモンを産生する膵臓を切除するため、特に膵体尾部切除術では血糖値の調整がうまくいかなくなり、高血糖・低血糖ともに起こりやすくなることがあります。術後に糖尿病を発症したり元々あった糖尿病が悪くなることもあり、場合によっては糖尿病の専門医に診てもらう必要があることもあります。
  • 術後胆管炎(膵頭十二指腸切除の場合)
     腸と胆管を直接つなぐため、腸内細菌が肝臓の胆管に逆流しやすくなり、胆管炎を起こしやすくなります。38℃以上の高熱が出るだけで何も症状がないということもありますが、内服もしくは点滴の抗生物質の治療や入院が必要となるので、38℃以上の高熱では必ず病院を受診するようにしてください。
  • 免疫能低下(膵体尾部切除術の場合)
     膵体尾部切除では脾臓を合併切除することがほとんどです。脾臓摘出により感染症にかかりやすくなることがあり、特に肺炎球菌という細菌にかかりやすくなります。2歳以上であれば脾臓摘出後は保険適応でワクチンを摂取することができ、これにより肺炎球菌感染症を予防することができます。

膵頭部がん手術件数

膵頭部がん治癒切除数 膵頭十二指腸切除術数
2016 11 20
2015 6 20
2014 6 18
2013 9 21
2012 13 21

膵体尾部がん手術件数

膵体尾部がん治癒切除数 膵体尾部切除術数
2016 7 9
2015 3 7
2014 8 12
2013 5 5
2012 3 8

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