各がんの解説EXPLANATION

胆道がん

            

胆道

胆道とは肝臓で生成された胆汁の通り道で①胆管(肝内胆管や肝外胆管)、②胆嚢、③十二指腸乳頭部からなります。

①胆管は肝臓から十二指腸までの胆汁が通る管のことです。胆管は肝臓の中に張り巡らされた細い管(肝内胆管)として始まり、それらが合流して次第に太くなり、肝門部という肝臓の出口で1本にまとまります。肝臓の中の胆管を肝内胆管、肝臓の外の胆管を肝外胆管ともいいます。

②胆嚢は、胆汁を一時的に貯めて濃縮する袋状の臓器で、西洋梨状の形をしています。食事をすると胆嚢は収縮して貯めていた胆汁を胆管から十二指腸に出し、消化吸収の助けをします。

③十二指腸乳頭部は胆管が十二指腸に開口する部分で、膵管と合流しています。乳頭部を取り囲むように括約筋が存在し、胆汁の流れを調節しています。

胆汁には脂肪を乳化し、膵液による脂肪の分解を促す作用があります。また胆汁にはビリルビンという黄色の色素が含まれ、これが便と混じって排泄される過程で正常な便の色(茶褐色)のもとになります。

胆道癌

胆道癌とは胆道に出来る癌の総称であり、癌の出来る部位によって①肝内胆管から発生する肝内胆管癌、②肝外胆管から発生する胆管癌(肝外胆管癌)、③胆嚢から発生する胆嚢癌、④十二指腸乳頭部から発生する十二指腸乳頭部癌に分類されます。また広い範囲の胆管に広がるものとして⑤広範囲胆管癌もあります。

罹患数・罹患率

がん対策情報センターの報告(2015年罹患数・率報告)によると胆道癌の年間罹患者(新しい患者)は22,159例(男性11,964例、女性10,195例)で年間死亡者数は17,773人(男性9,357人、女性8,416人)であり、罹患数(年齢調整罹患数)は男性で12番目、女性では13番目に多く、死亡数は男性で8番目、女性で9番目に多いがんであると報告されています。
※肝内胆管癌は肝臓癌としてまとめられたデータで報告され、上記には含まれていません。

危険因子

胆管癌の危険因子として胆管拡張型の膵・胆管合流異常、原発性硬化性胆管炎があり、胆嚢癌の危険因子には膵・胆管合流異常があるが十二指腸乳頭部癌にはエビデンスのある危険因子は報告されていません。
肝内胆管癌の危険因子としては肝硬変、B型肝炎、C型肝炎、飲酒、糖尿病、肥満、喫煙、非アルコール性脂肪肝炎、肝吸虫や原発性硬化性胆管炎、肝内結石、先天性胆道拡張症(総胆管嚢腫)、カロリー病と炎症性腸疾患が報告されている。
また近年印刷業務従事者に肝内胆管癌を含む胆管癌が多く発生することが注目され、印刷事業で使用する1,2ジクロロプロパンやジクロロメタンなどの有機溶剤が原因物質として報告され、2013年より労働災害として認定されました。このような職業関連性胆道癌は通常の胆道癌と比べ、30歳代、40歳代などの若年層で発症が多いことが知られています。

症状

胆道癌によくみられる症状としては体が黄色くなる黄疸、腹痛・腰背部痛、全身倦怠感、食欲不振、褐色尿、発熱、掻痒感(かゆみ)、体重減少などがあります。
黄疸は胆道癌で最も多くみられる症状であり、体全体の皮膚や目の白い部分が黄色くなります。黄疸は胆管に癌が出来ると胆汁がせき止められ、行き場をなくした胆汁が血液中に流れ出し、胆汁中にあるビリルビンという成分が血液中に増加するために生じます。

診断

上記のような症状を認め、胆道癌が疑われた場合、『胆道癌診療ガイドライン』に示されるような胆道癌診断のアルゴリズムに沿って検査が進められる。

血液検査

胆道癌が発生して胆汁の流れが滞ると黄疸の指標であるビリルビンや胆汁うっ滞の指標であるアルカリフォスファターゼ(ALP)やγGTPなどの数値が上昇します。また胆汁がうっ滞して肝機能障害を来すとASTやALTといった肝機能の働きをしめます数値が上昇します。
胆道癌ではCA19-9やCEAといった腫瘍マーカーが上昇することがありますが、胆道癌であってもこれらの腫瘍マーカーは正常な人や、その他の癌でも異常値を示すことがあります。また胆道癌があっても必ず上昇するものでもなく、胆道癌の診断においては補助的な役割を果たします。

腹部超音波検査

腹部超音波検査は簡便で患者さんへの負担のない安全な検査法として、外来診療や健診において有用です。ただし、消化管のガスや肥満により超音波が反射・減衰し、病変の描出が困難な場合があり、病変の存在する部位によっては腹部超音波検査だけでは発見できないことがあります。

CT(コンピュータ断層撮影)

CTとはComputed Tomography(コンピュータ断層撮影)の略で、X線(レントゲン)を用いて人体の輪切り画像をコンピュータによって再構成する装置です。技術進歩によって近年では短時間で高精度の画像が作成出来るようになりました。
造影CT(ダイナミックCT)では病変の大きさ、位置、広がり(周囲の血管や臓器との関係、転移の有無)をとらえることが出来ます。造影剤でアレルギー反応が出現することがあり、造影剤アレルギーを生じたことがある方は申し出てください。

MRI(磁気共鳴断層撮影)

MRIはCTと異なりX線被曝がないため、短期間に繰り返し検査しても心配がありません。
MRI(Magnetic Resonance Imaging)とは、磁気と電磁波を用いて水素原子の動きを利用し、体の断面を撮影する検査です。MRI装置に入り体に電磁波を当てると、体内の水素が反応して信号を出します。その信号を捕えてコンピュータ解析をして画像にし、コイルと呼ばれる受信機を検査部位に装着し検査を行います。様々な角度から撮影ができ、また同じ角度で色合いの異なる画像を撮影するため、検査時間は20分~30分、またはそれ以上かかる場合があります。

治療

胆道癌の治療としては外科治療、化学療法(抗癌剤治療)、放射線治療があり、切除が可能な場合は手術が唯一治癒の期待出来る治療であり、手術が第一選択となります。胆道は肝臓から十二指腸乳頭部に至る胆汁の流れ道であり、腫瘍の出来る部位によって行われる手術は多様であり、(胆道再建を伴う)肝切除や膵切除などの大きな手術が行われることがあります。また同じ癌であっても、がんの深さや広がりによって、動脈や門脈といった血管を含む切除(血管合併切除)が必要になったり、広範囲胆管癌では肝膵同時切除といった更に大きな手術になったりすることがあります。

[外科治療]

胆管癌

肝門部領域胆管癌
肝切除+肝外胆管切除+胆道再建
 ※肝切除には(拡大)右肝切除、(拡大)左肝切除、左3区域切除、中央2区域切除などがあります。
肝外胆管切除+胆道再建
 ※広範囲胆管癌の場合には肝膵臓切除が選択されることもある。

切除不能肝門部領域胆管癌

肝門部領域胆管癌の治療は外科的切除が第一選択ですが、しばしば局所的な要因(癌の進展範囲が広範囲すぎたり、血管に浸潤していたりする場合)や残肝体積、機能不足により切除不能と判断されることがあります。
肝門部領域胆管癌に対する肝移植は欧米では比較的多く行われていますが我が国では肝門部領域胆管癌に対する肝移植は保険適応がなく、ほとんど行われていないのが現状です。近年、切除不能肝門部領域胆管癌に対する生体肝移植の臨床研究が開始され、生体肝移植により切除が可能となる可能性があります。2022年9月に先進医療Bとして告示され、全国10施設で実施されており、適応があり、希望される方は実施施設への紹介をいたします。

肝門部領域胆管癌に対する生体肝移植基準

対象基準 1.残肝機能不足
2.広範囲血管浸潤(再建不可)
3.広範囲水平方向進展(断端陽性が予想される)
4.原発性硬化性胆管炎の併存(癌の診断困難で残肝胆管の癌遺残が懸念)
上記いずれかにより切除不能と診断された肝門部領域胆管癌
除外基準 遠隔転移、リンパ節転移
プロトコール 1.術前化学療法を6-8クール施行、その後放射線療法を行う。
2.肝移植の2-3週間前のステージング手術(腹膜播種/リンパ節転移の有無)

遠位胆管癌

膵頭十二指腸切除術

胆嚢癌

胆嚢摘出術
肝切除、(肝外胆管切除+胆道再建)
胆嚢床切除、(肝外胆管切除+胆道再建)
腹腔鏡下切除も適応
肝膵臓切除

十二指腸乳頭部癌

乳頭部切除術(内視鏡的乳頭部切除術)
膵頭十二指腸切除

[肝機能評価]

胆道癌の手術では肝切除を伴うことがあります。術前に血液検査、超音波エコー、CT、MRI、血管造影など精密検査を行い、肝機能がどの程度低下しているか、がんを取り除くために肝臓のどの範囲を切除すればよいか、どれだけの肝臓を残すことができるかを評価します。正常な肝臓であれば、肝臓の70%を切除することが可能です。それは、正常な肝臓は肝切除後の再生能力が旺盛で、小さくなった肝臓が3ヶ月もすれば元の80%程度まで大きくなり、肝機能も回復するからです。しかし、肝機能が低下した肝臓では小範囲を切除しただけでも肝機能がさらに低下し、肝再生も乏しく術後肝不全に陥る危険性があります。当院では術前の精密検査により、肝機能に応じた肝切除範囲を設定し、CT画像をもとに肝切除術のシミュレーションを行い、個々の患者さんに最も適した術式を選択します。
大量肝切除を伴う手術が予定されている場合、術後合併症を予防する目的で術前に門脈塞栓術を行うことがあります。門脈塞栓術(PVE)には経皮経肝アプローチ(PTPE:percutaneous transhepatic portal vein embolization)と経回結腸静脈アプローチ(TIPE:transileocolic portal vein embolization)があります。通常は経皮経肝アプローチで行われます。経回結腸静脈アプローチはまれで全身麻酔下での開腹術で行う必要があります。

[化学療法]

外科的切除が困難な場合や、切除後に再発した際に化学療法(抗癌剤治療)を行います。化学療法だけでは癌を完全に治すことは困難ですが、癌の進行を抑えることにより、生存期間を延長したり、症状を和らげたりすることが可能です。治療の効果がなくなったと判断されるか、副作用のために継続が難しいと判断されるまで投与を継続していきます。
胆道癌の化学療法としては、ゲムシタビン+シスプラチン併用(GC)療法やゲムシタビン+S1併用(GS)療法などの併用療法が行われます。また、近年、これらを組み合わせた、ゲムシタビン+シスプラチン+S1併用(GCS)療法や免疫チェックポイント阻害薬であるデュルバルマブ(イミフェンジ)を組み合わせた、ゲムシタビン+シスプラチン+デュルバルマブ併用(GCD)療法が有用な治療法の一つとして注目されています。
近年、遺伝子異常を標的とした分子標的薬による治療を行うゲノム医療が注目され、胆道がんにおいては、ゲムシタビン療法耐性の FGFR2融合遺伝子陽性例に対してペミガチニブが2021年に保険承認され、2019年から様々な遺伝子異常を同時に調べる遺伝子パネル検査が保険診療として行えるようになりました(現段階では検査費用が高額で治験を含めた治療へつながる可能性が1割以下で稀です)。

[補助療法としての化学療法]

手術により、肉眼的には癌が取りきれたと判断された場合でも、顕微鏡で確認するとがん細胞が残っていたり、完全に取りきれているように見えても同じ場所から再発したりしてしまう場合があります。このため、手術の後に化学療法を補助療法として行うこともあります。
近年、胆道癌の根治手術を受けた患者さんを対象に術後補助療法としてS-1を評価したJCOG1202/ASCOT試験で、肝内胆管癌を含む切除可能胆道癌を対象にテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム 配合薬(S-1)の術後補助療法に関する有効性が報告され、胆道癌の手術後はS-1補助療法を行うことが今後のガイドライン改訂後はS-1 が術後補助療法の標準治療 になると考えられています。
また現在、ゲムシタビン、シスプラチン、S-1の3剤併用による術前化学療法(GCS療法)の有効性を検証するランダム化第3相試験が実施され、術前治療としての化学療法が検証されています。

[放射線治療]

外科的切除が困難な場合、癌の進行抑制を目的あるいはステント開存性維持、疼痛緩和などの目的で放射線治療が行われる場合があります。

[胆道ドレナージ]

ドレナージには経皮的アプローチと内視鏡的アプローチがあります。経皮的アプローチは腹部の皮膚からチューブを差し入れて肝臓を通す経皮経肝胆管ドレナージ(PTBD)で、内視鏡的アプローチには留置するドレナージチューブの種類によってENBD、EBS、SEMSに分けられます。またEBSでにはステントの下端を乳頭部から出す方法が一般的でしたが近年、ステント下端を乳頭内に埋め込む留置法(インサイドステント)も注目されています。

進行度(ステージ)

胆道癌取扱い規約に沿って進行度が決定されます。また肝内胆管癌は原発性肝癌取扱い規約に沿って進行度が決定されます。
胆道癌の進行度は、がんの広がり(T:tumor)、リンパ節転移の有無(N:node)、遠隔転移(M:metastasis)で決まり、T因子は胆道癌の部位ごとに定義されています。

UICC TNM臨床分類TNM臨床分類 胆道癌取扱い規約 TNM分類本邦の規約での起債・細分化
T-原発腫瘍 T分類に加えて深達度を()で付記する
TX 腫瘍評価不能
T0 腫瘍が明らかではない
Tis 上皮内癌(carcinoma in situ)
T1 胆管壁までの浸潤 T1a(M):粘膜層(M)までの浸潤
T1b(FM):線維筋層(FM)までの浸潤
T2a 胆管壁を超えるが多臓器への浸潤なし
T2b 肝実質浸潤
T2a(SS):腹腔側漿膜下層までの浸潤(SS)
T2a(SS):漿膜浸潤(SE)
T2b:肝実質浸潤(SI)(Hinf)(SI)
T3 胆管浸潤優位側の門脈あるいは肝動脈浸潤
T4 門脈本幹あるいは左右分枝(両側)への浸潤;
左右肝動脈(両側)、固有肝動脈、総肝動脈浸潤;
浸潤が片側肝内胆管二次分枝に及び、対側の門脈
あるいは肝動脈に浸潤
N―領域リンパ節
NX 評価不能
N0 領域リンパ節転移なし
N1 1-3個の領域リンパ節転移
N2 4個以上の領域リンパ節転移
M―遠隔転移
M0 遠隔転移なし
M1 遠隔転移あり

UICC TNM臨床分類 本邦の規約での起債・細分化胆道癌取扱い規約 TNM分類
T-原発腫瘍 T分類に加えて深達度を()で付記する
TX 腫瘍評価不能
T0 腫瘍が明らかではない
Tis 上皮内癌(carcinoma in situ)
T1 胆管壁に深さ5mm未満で浸潤 T1(M):粘膜層(M)までの浸潤
T1(FM):線維筋層(FM)までの浸潤
T1(SS):漿膜下層(SS)までの浸潤
T2 胆管壁に深さ5mmから12mmまでの間で浸潤 T2(FM):線維筋層(FM)までの浸潤
T2(SS):漿膜下層(SS)までの浸潤
T2(SE):漿膜浸潤(SE)
T2(SI):他臓器浸潤(膵、十二指腸、胆嚢、肝、他)(SI)
T3 胆管壁に12mmをこえて浸潤 T3(SE):漿膜浸潤(SE)
T3(SI):他臓器浸潤(膵、十二指腸、胆嚢、肝、他)(SI)
T4 腹腔動脈、上腸間膜動脈、総肝動脈、門脈に浸潤
N―領域リンパ節
NX 評価不能
N0 領域リンパ節転移なし
N1 1-3個の領域リンパ節転移
N2 4個以上の領域リンパ節転移
M―遠隔転移
M0 遠隔転移なし
M1 遠隔転移あり

UICC TNM臨床分類TNM臨床分類 胆道癌取扱い規約 TNM分類本邦の規約での起債・細分化
T-原発腫瘍 T分類に加えて深達度を()で付記する
TX 腫瘍評価不能
T0 腫瘍が明らかではない
Tis 上皮内癌(carcinoma in situ)
T1 粘膜固有層または固有筋層に浸潤
 T1a:粘膜層までの浸潤
 T1b:固有筋層までの浸潤
T1a(M):粘膜層(M)までの浸潤
T1b(MP):固有筋層(MP)までの浸潤
T2 漿膜下層あるいは胆嚢床部筋層周囲の
結合組織に浸潤
 T2a:腹腔側
 T2b:肝側
T2a(SS):腹腔側漿膜下層までの浸潤(SS)
T2b(SS):肝側漿膜下層までの浸潤(SS)
T3 漿膜浸潤(腹腔側)、
肝実質浸潤(肝側)および/または一か所の他臓器浸潤
(胃、十二指腸、結腸、膵、大網、肝外胆管)
T3a:漿膜浸潤(腹腔側)または一か所の他臓器浸潤
 T3a(SE):漿膜浸潤(腹腔側)(SE)
 T3a(SI)(Hinf):肝実質浸潤(肝側)(Hinf)(SI)
 T3a(SI):肝外胆管以外の他臓器浸潤(1か所)(SI)
T3b(SI)(Binf):肝外胆管浸潤(Binf)(SI)
T4 門脈本幹あるいは総肝動脈・固有肝動脈浸潤、
あるいは肝臓以外の二か所以上の他臓器浸潤
T4a(SI):肝臓以外の二か所以上の他臓器浸潤
(肝外胆管、胃、十二指腸、結腸、膵臓、大網、他)(SI)
T4b:門脈本幹あるいは総肝動脈・固有肝動脈浸潤
N―領域リンパ節
NX 評価不能
N0 領域リンパ節転移なし
N1 1-3個の領域リンパ節転移
N2 4個以上の領域リンパ節転移
M―遠隔転移
M0 遠隔転移なし
M1 遠隔転移あり

UICC TNM臨床分類TNM臨床分類 胆道癌取扱い規約 TNM分類本邦の規約での起債・細分化
T-原発腫瘍 T分類に加えて深達度を()で付記する
TX 腫瘍評価不能
T0 腫瘍が明らかではない
Tis 上皮内癌(carcinoma in situ)
T1a 乳頭部粘膜層(M)
あるいはOddi括約筋(OD)までの浸潤
T1b Oddi括約筋をこえて浸潤(括約筋周囲に浸潤
する)、および/または十二指腸粘膜下層内に浸潤
T1(M):粘膜層(M)までの浸潤
T1(FM):線維筋層(FM)までの浸潤
T1(SS):漿膜下層(SS)までの浸潤
T2 十二指腸の固有筋層に浸潤 T2:(Du)
T3 膵臓または膵周囲組織に浸潤
 T3a 5mm以内の膵実質浸潤
 T3b 5mmをこえた膵実質浸潤、
または膵周囲組織あるいは十二指腸漿膜への浸潤
(腹腔動脈や上腸間膜動脈までは進展していないもの)
T3a:(Panc)
T3b:(Panc)
T4 上腸間膜動脈、腹腔動脈、総肝動脈、門脈に浸潤
N―領域リンパ節
NX 評価不能
N0 領域リンパ節転移なし
N1 1-3個の領域リンパ節転移
N2 4個以上の領域リンパ節転移
M―遠隔転移
M0 遠隔転移なし
M1 遠隔転移あり

肝内胆管癌は原発性肝癌取扱い規約に沿って進行度が決定されますが肝内胆管癌のうち「腫瘤形成型」またはその「優越型」のみに適応し、「胆管浸潤型」・「胆管内発育型」には適用しません。

T因子:
 TX:肝内病変の評価が不可能
 T0:肝内病変が明らかなではない
 T1~T4:以下に示す、癌腫の「個数」、「大きさ」、「血管侵襲(Vp, Va)・主要胆管(胆管一次分枝または総肝管)への浸潤(B3またはB4))の3項目によって規定される

肝内胆管癌のT因子

T1 T2 T3 T4
①腫瘍個数 単発
②腫瘍径 2㎝以下
③血管侵襲・主要胆管への浸潤なし
(Vp0, Va0, B0~2)
①②③すべて合致 2項目合致 1項目合致 すべて合致せず

N因子:
 N0:リンパ節転移を認めない
 N1:リンパ節転移を認める
M因子:
 M0:遠隔転移を認めない
 M1:遠隔転移を認める

手術の合併症・後遺症について

胆道は肝臓から十二指腸乳頭部に至る胆汁の流れ道であり、腫瘍の出来る部位によって行われる手術は多様であり、(胆道再建を伴う)肝切除や膵切除などの大きな手術が行われることがあります。また同じ癌であっても、がんの深さや広がりによって、動脈や門脈といった血管を含む切除(血管合併切除)が必要になったり、広範囲胆管癌では肝膵同時切除といった更に大きな手術になったりすることがあり、ほかの腹部手術に比べると術後の合併症の頻度が高くなります。最近は手術手技や術後管理の向上、手術器械の進歩などにより命にかかわるような重篤な合併症は比較的稀になりました。しかしながら軽度の合併症を含めると半分近くの方に何らかの合併症が起こりうる可能性があります。
合併症には、入院中に起こるような早期の合併症と、退院後に起こるかもしれない晩期合併症があります。

a)早期合併症(入院中に起こるかもしれない)

術後出血:
術後に手術部位からの再出血をきたすことがあります。非常にまれ(数パーセント以下)ですが、時に緊急で再手術を必要とすることがあります。

感染(創部や腹腔内感染):
創部が化膿することがあります。洗浄処置や抗生剤治療が必要になることがあります。
また、お腹の中に膿が溜まることがあります。お腹に入れた管から膿を外に出すことや追加で管を増やす処置を行うこともあります。他の合併症(膵液瘻や胆汁漏)を伴っていることが多いです。

胸水・腹水:
胸や腹部に水が溜まることがあります。ほとんどが自然になおることが多いですが、呼吸に影響を及ぼすほどの胸水がある場合には胸水を抜いたり、利尿剤などの薬剤を使用したりすることがあります。

縫合不全(膵頭十二指腸切除術の場合):
膵臓と小腸、胆管と小腸、胃と小腸という各つなぎめの治癒が悪く、消化液がお腹の中に漏れ出してしまうことです。頻度はつなぎめによりますが、膵臓と小腸は20-30%、胆管と小腸は5%程度、胃と小腸は数パーセント未満となっています。

門脈狭窄・閉塞、門脈血栓:
門脈を合併切除した場合や切除しなくても手術の影響などから門脈が狭窄・閉塞したり、門脈血栓が出来ることがあったりします。また、門脈閉塞によって門脈圧が高くなることがあり、経過観察のみで経過する場合もありますが、血液をさらさらにする薬(抗凝固薬)の使用や再手術、処置が必要になる場合があります。

肝動脈血栓・閉塞:
動脈を合併切除した場合や切除しなくても手術の影響などから肝動脈が血栓で狭窄したり、狭窄・閉塞するしたりことがあります。血液をさらさらにする薬の使用や再手術・処置などが必要になることがあります。

<肝切除を伴う場合>

肝不全:
大量肝切除の結果、黄疸や腹水、意識低下などを伴う肝機能障害に陥る、重い合併症で時に命に係わることがあります。一度低下したて肝臓の働きは約3か月で手術前の70-80%、1年で90%程度まで回復するといわれています。肝不全の予防のために手術前に門脈塞栓術を行うことがあります。
門脈塞栓術とは切除予定の肝臓への門脈を閉塞させ、3-4週間程度待機することで残す側の肝臓の血流を増やし大きくする方法です。門脈塞栓術を行うことで大量肝切除術後の肝不全は減少して安全な手術が出来るようになりました。

<肝切除を行った場合や胆道再建(胆管と腸をつなぐ)を伴う手術の場合>

胆汁漏:
肝臓の切離面から胆汁が漏れたり、胆管と小腸の間の縫合不全で胆汁が腸の中を通らずに、お腹の中に漏れてしまうしまったりすることです。胆汁も消化液なので、周囲の組織を傷つけますが、膵液漏ほど大きな問題になることは少なく、手術のときにお腹に入れた管で胆汁を体の外に出す処置のみで経過をみることが多いです。

胆管炎:
胆管と小腸をつなぐ胆管空腸吻合(胆道再建)を行った場合、つないだ箇所が狭くなったり、腸の動きや胆汁の産生が悪くなったりすることなどが影響して腸液が逆流し、胆管炎を起こすことがあります。悪寒を伴う高熱が症状で治療には抗菌薬を使用することがあります。

<膵切除を伴う場合や膵内胆管を剥離した場合など>

膵液漏:
膵臓と小腸の間の縫合不全の結果、もしくは膵内胆管を剥離したり、周囲のリンパ節郭清をした膵臓の剥離面から膵液が腸の中を通らずに、お腹の中に漏れてしまうしまったりする状態です。膵液はタンパク質や脂肪に対する消化酵素を多く含むため、もし膵液漏となった場合、お腹の中で強い炎症を起こします。そこに細菌感染を起こすと膿瘍を作ってしまうので、そうならないように抗生剤治療や体の外にその溜まりを出す処置を行うことがあります。膵液が出ないように長期間の絶食が必要になることもあります。また非常にまれではありますが、血管の周りを溶かして出血をきたし命に関わることがあり、緊急で処置や手術が必要になることもあります。このような事態にならないように細心の注意を払いますが、膵液漏自体の頻度は比較的高く、その治療に数週間要することがあります。

〈腹部手術全般に起こりうる合併症〉

血栓症:
手術中や手術後に長時間臥床していると、特に下肢の血液が静脈の中でうっ滞して固まり、血栓を作ることがあります。これが肺に飛んで肺塞栓が起こると、時に致死的になります。その予防として、術中の下肢マッサージや術後の抗血栓薬を使用します。

腸閉塞:
腸管の麻痺や癒着のため腸の内容物の通りが悪くなり、排便・排ガスがなくなり、お腹が張ったり痛んだりします。術後早期に生じる場合と、退院して期間があいてから生じる場合があります。絶食や手術が必要な場合もあります。

呼吸器(肺炎・無気肺・胸水など)、循環器(狭心症・心筋梗塞・不整脈・心不全など)、脳(脳梗塞など)の合併症など:
手術前に十分に検査を行っていても、全身麻酔による手術に伴い、合併症が起こる可能性が通常生活しているよりも少し高くなります。何か起こった場合はすぐに対応させていただきますが、それでも一度発症してしまうと命に関わることもあります。

b)晩期合併症(退院後に起こるかも知れない後遺症)

胆管炎(胆道再建を行った場合(膵頭十二指腸切除や胆管切除、胆管切除を伴う肝切除の場合):
腸と胆管を直接つなぐため、腸内細菌が肝臓の胆管に逆流しやすくなり、胆管炎を起こしやすくなります。38℃以上の高熱が出るだけで何も症状がないということもありますが、内服もしくは点滴の抗生物質の治療や入院が必要となるので、38℃以上の高熱では必ず病院を受診するようにしてください。

胆管狭窄、肝内結石:
特に肝門部領域胆管癌などで多数の、細い胆管を小腸と吻合場合や術後感染が生じた場合などに小腸と胆管の吻合部が狭くなって黄疸を来したり、胆管内(肝内胆管)に結石が生じるたりすることがあり、その場合には狭窄した胆管の拡張や採石などの処置が必要になることがあります。

食事摂取不良、低栄養:
消化酵素を作る膵臓を切除するため、消化能力が低下します。また、がんの手術ではがんが神経に浸潤することもあり神経を広く切除することや、膵頭十二指腸切除術の場合食べ物や消化液の流れ道が変わることなどから、食べられる量が減ったり、十分に量を食べていても栄養不良状態が続くいたりすることがよくあります。退院時に栄養士から食事の内容や食べ方について説明をさせていただきますが、そのほか消化剤などを必要とすることもあります。退院後には一時的に体重が1割近く減少し、数ヶ月から一年かけて徐々に良くなることが多いですが、手術前に近い状態まで回復しないこともあります。

下痢:
がんの手術ではがんが神経に浸潤することがあるので、膵周囲の神経を広く切除します。このため消化機能が低下し、下痢をおこしやすくなります。食後すぐに便意をもよおしたり、一日に何回も水様便が出るたりすることもあります。薬でコントロールを行いますが、なるべく消化の良い食事を、少量ずつ何回かにわけて取るようにしましょう。

耐糖能異常:
血糖値を調整するホルモンを産生する膵臓を切除するため、特に膵体尾部切除術では血糖値の調整がうまくいかなくなり、高血糖・低血糖ともに起こりやすくなることがあります。術後に糖尿病を発症したり元々あった糖尿病が悪くなるったりすることもあり、場合によっては糖尿病の専門医に診てもらう必要があることもあります。